MRI Research Associates
技術・安全事業部 
科学・安全チーム
PROJECT STORY06
ストーカー対策の現状を把握せよ
近年、ストーカー対策に関する法整備が進んでいる。
しかし、相談件数は高止まりしたままで被害を未然に抑止・防止するためには、様々な関係機関の連携が必要だ。
この状況を打破するには、現状の把握が急務だった。
水島 彩子

技術・安全事業部
科学・安全チーム
事業リーダー
2017年入社
安全・犯罪科学研究科 犯罪科学専攻 修了

神奈川県出身。報道機関で主に事件記者として勤務後、英国の大学院で犯罪科学(刑事政策)を学び、MRAにキャリア入社。長期休暇は旅行へ出かける。海外のクライムサスペンスドラマを見るのが好き。

Ayako Mizushima
染谷 うた子

サステナビリティ事業部
地域創生チーム
2017年入社
法学部 法律学科 卒

東京都出身。中学・高校では陸上の中距離選手として活躍。将来、警察官になりたいと考えていたため、大学から柔道を始め初段を取得。月1回はディズニー・シーへ行っている。

Utako Someya

01
プロジェクトの背景

高水準で推移するストーカー被害を抑止するために

2013年に全国の警察に寄せられたストーカー被害の相談件数が2万件を超えて以降、高い水準で推移している。2017年、その数は2万3079件と過去最高に達した。このような状況を踏まえて、2017年1月には改正ストーカー規制法が施行。規制対象行為の拡大やストーカー行為をするおそれのある者への被害者情報提供の禁止、加害者の更生、被害者の健康回復についての調査研究の推進など、ストーカー対策の法律が一層整備された。しかし、運用面ではまだ多くの課題があると、刑事政策を専門とする水島と、法学部出身の染谷は語る。

水島
「昔に比べて警察の意識が変わっているのは事実です。被害の初期段階で迅速な対応をすることで、被害の悪化を防ぎ、被害者の安全を確保できるよう、相談を受けた際の対策も細かく整えられつつあります。ただ、被害相談を受けるのは警察だけではなく、むしろ実際はもっと身近な窓口に相談する被害者も多いため、未然予防においては警察とそうした機関との連携が非常に重要です。相談窓口は、自治体や被害者支援団体のほか、学生であれば学校の学生相談室、社会人なら職場など多岐に渡り、それぞれの機関が対策を模索、実行しています。しかし、ストーカー事案では、事件の色が濃い場合など警察にしかできない対応も少なくないため、どうしても連携が必要となる場面が出てくるのですが、被害相談を受けても個人情報保護の観点から情報共有をすることに躊躇する機関が多く、そうした被害相談対応をしている多機関と警察での横の連携体制がまだ十分に整っていないのが現状です」
染谷
「例えば、ストーキングは、見知らぬ人からよりも、元交際相手や友人、同僚など、知っている人からされることが圧倒的に多いので、深刻な状況だと自覚していなかったり、あるいは『大ごと』にすることに抵抗があったりして、警察に相談するのをためらう被害者が多い。被害相談を受けた機関は、相談者から『警察には言わないでほしい』と言われた場合など、相談者の同意なしに警察と情報共有することはできないとしていることが多いのですが、危険そうな事案のときなど、対応に苦慮しているのが実状です」

国内外機関の現状を把握し、未来へつなげる

国は多機関連携によるストーカー対策が後手に回っている現状を重視し、改善に向けた取り組みの強化に向け、現状を把握し対策を検討するための調査研究を行う機関を公募。MRAが単独で受注し、2017年7月からプロジェクトが動き出すことになった。

水島
「効果的な対策を講じてストーカー被害を防止、軽減するためには、まず現状をしっかりと把握する必要があります。そのために国内外の情報を調査し、データを集めて分析し、今後の政策に向けた提言をするというのが今回のプロジェクトでした。ストーカー対策の進んでいる諸外国に目を向けると、多機関連携を機能的に行っているなど、官民で先進的な取り組みを行っています。そのような他国の制度や取り組み内容を調査することが一つ。もう一つは、国内の現状を把握するため、関係機関と警察との連携における課題を洗い出すという調査です。この調査研究を、多機関連携の枠組においてストーカー被害者からの相談対応の充実、被害者への中長期的な支援の充実、そしてストーカー加害者対策の推進につなげていくためにはどのような情報や分析が必要か、そこから考える必要がありました」

02
MRAの取り組み/課題と突破

経験や専門知識を生かし諸外国の取り組みを調査

プロジェクトに役立ったスキルは何だったのか?

水島
「私自身、ストーカー対策の専門家ではありませんが、前職でのキャリアで培った経験や、大学院で学んだ専門知識を生かすことができました。MRAに入社する前は報道機関の記者として働いており、こうした事件や政策についての取材を担当していて、海外のストーカー対策専門機関についても取材したことがありました。また、大学院での修士論文のテーマが『東京におけるドメスティックバイオレンス(DV)の危険因子に関する考察』だったのですが、諸外国ではDVとストーカーは同じ枠の中で取り組みがされていることも多いため、諸外国のストーカーに関する最新の制度についての知識もありました。恩師や、自分が知っている有識者の知見を借りながら、どこの国でどのような施策が行われているのか、どんな組織・団体があり、その活動内容はいかなるものか、財源や法的根拠はどうなっているのか、そしてその取り組みの検証結果はどうだったのかなど、詳しく調べていきました」

日本の法制度や社会情勢を念頭に調査

どのような部分が難しく、工夫が必要だったのだろうか?

水島
「法制度も文化も異なる海外の制度情報を集めるだけではあまり意味はありません。日本におけるストーカー対策の向上につなげていくことを想定して、日本の法制度や文化、社会が抱えている課題を意識し、日本で生かすことを考えながら情報を吟味する必要があります。例えば、欧州や北米ではNGOによる支援活動が活発なのですが、そもそもこうした諸外国ではNGOの役割や位置付けが日本とは少し異なっており、政府による補助金や、官民で役割分担するための連携の枠組があるといった背景があります。社会における立ち位置も異なりますね。そうした土壌で発展してきた欧米の制度を現在の日本にそのまま取り入れても、十分に機能するとは考えられないため、日本の行政制度や法制度、社会情勢などを念頭に調査する必要がありました」
染谷
「こうした海外調査と並行して、国内機関における取り組みの現状や抱えている課題をアンケートとヒアリングで詳しく調査することで、日本の課題に適切な諸外国の制度を探っていきました」
水島
「この調査研究では、海外文献調査があるので語学力も必要ですが、重要なのは専門的な知見と分析力、そして語学の壁を越えて調査できることです。ただ語学ができるだけでは専門的な分析はできませんし、逆に日本語以外の文献が読めないのでは、適切な調査はできません。MRAには、英語はもとより、フランス語、ドイツ語、中国語など、多様な言語で高い語学力を持つ研究員がいるので、こうした専門的かつ語学力を要する調査研究を、各分野の研究員が一貫して行えることが特徴です。翻訳作業と文献調査で担当者を切り分けたり、あるいは外部に委託したりすることなく遂行できるので、常に全体を俯瞰しながら進められ、より適切な提言をすることができます」

03
成果/将来の展望

ストーカー被害を予防するための政策制度設計につなげたい

本プロジェクトは今後のストーカー対策にどのような意味があるのか?今後の事業分野の展望は。

水島
「『犯罪の予防』と言ったとき、発生自体を防止する一次予防はもとより、事態の深刻化を防ぐ二次予防、再発を防止する三次予防も重要です。現状の課題や、先進的な取り組みが既に行われている諸外国の状況を把握することで、特に二次予防のための、より実態に即した法制度や政策を検討するのに役立つと思います。また、そうした仕組みづくりの検証には欠かせない、データに基づいた調査分析は、MRAの研究員の強みである統計分析や数値解析力を生かせる分野です。ストーカーはもとより、様々な犯罪の予防・予測のための調査研究など、安全に関する政策の検討に資する提案をしていきたいです」
染谷
「私は、学生時代に刑事政策やストーカー対策について特別に学んできたわけではなく、また、水島さんとは別の部署に所属していますが、法律を学んできて、犯罪から社会を守る制度づくりに関心があったので、本プロジェクトの内容に非常に興味を持ち、参加することになりました。0からのスタートで分からないことばかりでしたが、指導を受けながら勉強の日々です。MRAは『やってみたい』と思ったプロジェクトには、その分野の知識や経験があまりなくても、挑戦させてくれる会社です。初めは分からないことが多くても、自分がスキルを高めたいと思う分野について、実務を通して徐々に専門性を高めていくことができます」
水島
「社会の安全に関する事業は、法律や行政の知識だけ、あるいは数値解析や統計分析ができるだけでは不十分で、文系・理系両側面からのアプローチが必要です。日本を含む先進国の犯罪件数は近年減少傾向にありますが、その一方で犯罪形態自体は、インターネットの普及や、人口・社会構造、ライフスタイルの変化といった社会情勢とともに、多様化・複雑化しています。そのため、時事や一見関係のなさそうな分野にもアンテナを張り、広い視野を持って取り組むことが重要です。「安全」というすべての人に身近な課題の解決に関心がある人や、知的好奇心が強い人は、きっとやり甲斐を感じられると思います」