MRI Research Associates
サステナビリティ事業部 
PROJECT STORY06
サステナブルな水循環と
社会システムを作れ
ビッグデータ解析で
浄化槽を長寿命化せよ
日本の下水道普及率はおよそ80%で、残りの多くは浄化槽システムを利用している。
これらのうち、古いものは出荷・設置から50年が経過しようとしており、
老朽化による不具合が見られ、生活環境に悪影響が生じる恐れのある事案も発生している。
破損の予防・長寿命化に向けた計画の策定と実行が、喫緊の課題だ。
三堀 純

サステナビリティ事業部
グリーントランスフォーメーションチーム
チームリーダー
2009年入社
農学府 物質循環環境科学専攻 修了

高校の山岳部時代、山で飲んだ水にあたり、水問題に興味を抱く。大学・大学院で水に棲む微生物を研究し、今に至る。コロナ禍で遠出できないため、近所の江戸川でカヤックを始めて、はまる。回頭性が高く、高い操舵性が求められるリバーカヤックに挑戦中。

Jun Mitsuhori
佐々木 唯

サステナビリティ事業部
水・資源循環チーム
2018年入社
工学研究科 建築学専攻 修了

大学・大学院で都市計画を学び、現在はインフラ関連の業務を中心に従事。何か趣味をつくりたいと買ったBMXだったが、コロナ禍で練習できない日々。テレワークで自宅にいることが多くなったため、念願の猫を飼おうと画策。しかし、先に引越しが必要で検討している。

Yui Sasaki

01
プロジェクトの背景/目的

浄化槽を長寿命化することで、
社会的なコストを抑えられる

そもそも、行政的には浄化槽システムも「恒久的なインフラ」として位置づけているものの、「下水道が整備されるまでの一時的な設備」としての性質から抜けきれず、恒久化の具体策は講じられてこなかった。老朽化することに対し、使用期限や部品の交換時期などが明確になっておらず、いつ何をすべきか国にも自治体にも答えがない状況にあった。

しかし、地域全体の生活環境を適切に守ることは行政の役目であり、浄化槽システムからの漏水事故などを未然に防ぐため、破損の予防や長寿命化に向けた対策を講じる必要がある。では、浄化槽の改修や部品交換をしていくには、自治体や浄化槽関係者は何をその根拠や指針とするのか。そして、何をもって管理するのか。これを整備するために、まずは実験的なアプローチから情報を収集し、最終的にはどのような対策を施せばよいかを導き出したのが、本プロジェクトの中身だ。

どのようにしてプロジェクトは始まったのか。

三堀
「実は、以前から水に関連する業務を環境省や地方自治体からいただいており、その流れで、MRAから環境省へ提案してスタートしたのが、このプロジェクトになります」

「浄化槽システムの素材にプラスチックが使われています。この耐用年数がどれくらいあるかは重要なポイントですが、実際のデータはあまりありません。しかしMRAでは、浄化槽をはじめとした水インフラに関する専門性や解析技術、工学的知見、データ管理技術などに対する深い見識を持ち併せており、これを活かしたいと考えていました。一方、環境省では浄化槽の老朽化リスクを早めに潰し込みたいと考えており、各地方自治体がリスト化していた浄化槽の設置年と埋設場所などが記録されたビッグデータを、うまく活用したいと考えていました。両者のニーズに通じるものを見出したわけです」

「こうして、『浄化槽長寿命化計画の策定』に向けた、浄化槽の劣化調査やガイドラインの整備を検討していくことになりました」

具体的に取り組んだことは。

佐々木
「まずは、浄化槽の情報を管理する『台帳システムの要件定義』があります。各家庭に埋まっている浄化槽の情報を、自治体が継続的に管理していきやすいよう、紙ではなく電子上で管理できるようなシステムの要件定義を行いました。また、40年以上使用した浄化槽を地下から掘り出して強度試験を行い、浄化槽がどれだけ劣化していて、まだどれくらい使えそうかを把握しました」

「そして、長寿命化計画を作成していくために、長寿命化対策をした場合と、しなかった場合とを比較し、長寿命化による経済効果を試算しました。壊れてから入れ替えるよりも、補修費用をかけて長く使った方がコストを安くできます。それを踏まえて、複数の自治体をご支援し、自治体からもご意見を頂きながら、市町村において浄化槽管理を行う『モデル的浄化槽長寿命化計画』を試作しました」

02
MRAの取り組み/課題の克服

視点を変えれば、
人も、お金も動くようになる

浄化槽を地下から掘り出す強度試験を行ったと聞いた。しかし、考えてみれば、そのような作業は容易なことではないはずだ。実際には、誰がどのようにして実施したのだろうか。

三堀
「業界団体やメーカーなどへ、業界全体でのご協力を依頼しました。3、4ヶ月の間に全国十数カ所のご家庭から、実際に使っている浄化槽を回収し、新しい物を入れなければなりません。費用もかかるため、業界にご協力をいただけるアイデアが必要でした」

業界にとって何かメリットが生まれるような仕組みということか。

三堀
「そうです、何らかの形でこの業界に還元されることが必要でした。そういった意味で、プレッシャーも非常に大きなプロジェクトではありました。『業界の期待を一身に背負ってやっていた』という感じでした。長寿命化が有効だとなれば、何かしら手を打つ動きが当然出てきます。お金の流れが生まれれば、業界の利益になります。そして、国としてもそれによって全体のコストが下がるのであれば賛成です。ただ、この両者が良かったとしても、実際に長寿命化計画を作成し、管理・運用していく自治体の負担が大きすぎては協力してもらえません」
佐々木
「浄化槽の劣化というものを、どういう基準で解析・判断すべきか。大学の先生方から知見を頂きながら手法を導き出しました。しかし、当初のそれは一般の人からすると難解で、自治体の担当者レベルでも手を焼くものでした。そこで、どのような観点で作成すれば自治体でも運用しやすいものになるかということをMRAが考え、有識者にご意見をいただきながらバランスを取ることで、誰でも計画を作れるようなスタイルに落とし込めたと考えています」

制度として、予算化することはスムーズだったのか。

三堀
「そこが事業化する上での大きな壁でした。これをクリアしなければ、今でもまだ事業化されずにいたと思います。要は、『どういう予算の枠で実施するのが適当なのか』という理由付けです。簡単に言うと、日本は設備を造るための予算は取りやすいのに対し、動かしていくための予算は非常に取りづらいのです。浄化槽は装置を買うことや設置することよりも、維持管理の方に費用がかります。つまり、予算が付かないから、誰もがやらない。これをどうにかして欲しいというのが業界の宿願でした」

「しかしある時、『これなら予算として承認されるはず』というアイデアが浮かびました。他の社会インフラでは『最初に造ったものを長持ちさせる行為は、資本に対する費用だ』と見なされることが通例としてあることに気づいたわけです。浄化槽においては長寿命化するという発想を誰もしていませんでした。浄化槽システム内の機械の交換や浄化槽自体の補修を維持管理費とせず、資本費の中に入れることで国の財政から資金が出ることになり、業界にお金が流れ、回るようになりました。このような視点の転換も、本プロジェクトの成果を出すうえで必要であったと思っています」

03
今後の展望

様々な社会インフラの分散化も、
独自のノウハウで支えていきたい

目線を変え、これまでの概念を打ち破ることで、分散型設備を恒久的社会インフラとして位置づけて長寿命化計画を策定し、対策を講じていく制度を設立させるに至った本プロジェクト。今後の展開については、どのように見据えているのだろう。

佐々木
「計画策定のガイドラインを作り、国の補助制度を確立したという所で、本プロジェクトは一旦完結です。ただ、実際にそのガイドラインを使って自治体が計画を作るのはこれからになります。さらに、自治体が長寿命化対策を進めていく中で出てくる課題に対応する必要もあると思います。ガイドラインを作成したMRAだからこそ、計画策定を支援することができますし、自治体から出てきた課題などの意見を吸い上げ、国に対してフィードバックすることでも貢献できると考えています」
三堀
「また、今回のプロジェクトでは、これまでお付き合いのあった同業界の方々や大学の先生に加え、プラスチック素材の専門家とも初めて関わらせていただき、浄化槽分野のネットワークを拡大できたのも大きな収穫でした。これをMRAのさらなる強みとして活かしていければと考えています」
佐々木
「今後、人口の減少や、ICTなどのさらなる技術革新が予想され、あるいは新型コロナウイルスの影響などもあって、都市部の人間が外に出ていくという流れが加速するかもしれません。その時、すべての場所に下水道を敷設するのは難しく、浄化槽を設置するニーズはまだまだあると考えています。そして、水だけでなく、エネルギーや交通システムといった分野でも分散型の社会インフラ需要が高まっていて、今後さらに伸びていくことが予想されます。さまざまな社会資本をどう管理していくのか検討しなければならない中、今回の浄化槽の長寿命化に取り組んだ成果は、何か別のアプローチに活かせる可能性があると思っています」

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