MRI Research Associates
数理システム事業部 
解析ソリューションチーム
PROJECT STORY12
新たな時代のエネルギー需給を、
新たな時代の技術でシミュレーション
再生可能エネルギーや電気自動車などの普及に伴い、発電・蓄電をめぐる環境は大きな転機にある。
発電機を個別に所有し、事業者となる一般家庭や企業が、さらに増加すると予測されている。
これによって生み出される電力を、最適なタイミングで、適切な場所へ供給することは
真の省エネルギー化や、安定供給の継続といった観点から、大変重要である。
櫻木 俊輔

数理システム事業部
解析ソリューションチーム
2020年入社
理工学研究科・総合デザイン工学専攻 修了

東京都出身。エネルギー材料の物理に関する研究で博士号を取得。幼少の頃より音楽を嗜み、学生時代はオーケストラや室内楽でクラリネットを演奏。現在は演奏の機会はなくなったものの、クラシック音楽を中心に様々なジャンルの音楽鑑賞を趣味としている。

Shunsuke Sakuragi
老田 侑平

数理システム事業部
解析ソリューションチーム
2020年入社
理学研究科 物理学専攻 修了

富山県出身。大学・大学院時代は大阪で過ごす。専攻は物性物理学理論分野で、アンダーソン転移・臨界現象に関わる研究をしていた。数理的素養を活かした課題解決に興味がありMRAに入社。趣味は、観戦も含めてサッカーであり、贔屓にしているチームはG大阪。

Yuhei Oida

01
プロジェクトの意義

最適なエネルギー運用のため、
電力の需要予測に、もっと価値を

近年、CO2排出量の削減が世界的に叫ばれる中、その重要な役割を担うのが、太陽光や風力等の再生可能エネルギーだ。燃料を輸入に頼るようなことがなく国内で生産できることから、エネルギー安全保障にも寄与する。一方で、電力エネルギーは需要に合わせて発電量を調整し、無駄のない安定した供給が求められる。それには、将来のエネルギー需給状況を予測すること、そして適切なインフラ整備(配送電設備の強化)を行う必要がある。

このため、MRAでは三菱総合研究所(以下、略称MRI)と共にエネルギー需給シミュレーションを行い、社会における最適なエネルギー運用の在り方を、具体的な数値を基に提案することを目指している。

シミュレーションの結果が、なぜ求められるのか。

櫻木
「現在日本国内では、火力発電等がメインとなってベース電力を作っており、再生可能エネルギーは依然として補助的な位置付けです。一方で、地球温暖化問題の観点からは火力発電の割合を減らしていくことが求められており、今後はこれを他の発電方法で賄っていく必要があります。それに伴い、再生可能エネルギーの在り方も変わっていくはずです。つまり、自然条件に応じて発電量が変動しやすい再生可能エネルギーを蓄電池に貯めこみ、適切なタイミングで安定的に供給することが求められると予想されます」
老田
「これは、従来の電力の供給の仕組みとは大きく異なるため、配電設備の在り方も変わっていくと考えられます。太陽光を例に取れば、個人・法人を問わず、様々な人が電力事業者になれるため、将来的には発電の設備が全国各地に点在することになります。このように、電力の流れは今後大きく変化していくと予想され、電力会社は電線などの配電設備を先行して整備していく必要があります」

「また、再生可能エネルギーを有する個々人が電気を直接小売りすることは現実的ではありません。そこで、複数の事業者を取りまとめて市場に供給する、リソースアグリゲーターの存在が求められるようになります。彼らの立場から考えると、できる限り電力の売価が高い、つまり電力の需要が一番大きい時に売りたいはずです。一方で、電力はインフラですので安定的な供給が前提にあり、供給不足に対してはペナルティが課されることになります。そのリスクを回避するためには、信頼できる需要予測の技術が必要です」
櫻木
「そこでMRIグループでは、現状の発電・需要・配電設備の状況を把握し、再生可能エネルギーの普及に係わる将来推計を実施しています。その中で、MRAでは計算機を用いて、将来の電力の流れのシミュレーションや、エネルギー需要予測のテスト運用を行っています。これは、従来から社会問題に対し、数値シミュレーションに基づいた提言を行ってきたMRAの業務スタイルに、エネルギー需給が最適化された新しい社会の構築を目指すMRIの構想が上手くマッチした事業であると考えています。また、MRAでは古くから電力系統解析用ソフトウェアの販売や、それを用いた受託解析を発電機メーカーに対し行っているため、電力シミュレーションを行う本事業との親和性は高いと考えています」

どのようなお客様から求められているのか。

櫻木
「現在のところ、電力会社や発電機・配電設備のメーカー、商社など、『電気を作る、売る、それを仲介する』方々になります。MRIが電力需給体制の在るべき姿を提示し、MRAがそれを技術面からサポートし、より付加価値の高い提案をしています。このような提案は、まだ国内ではほとんどありません」

02
具体的な取り組み

AIが鍵を握る、
需要予測の精度やスピードのアップ

より付加価値の高い提案には、現在よりも高度な予測技術が不可欠だ。数値シミュレーションの豊富な実績を持つMRAだが、どのようにしてプロジェクトを技術面からサポートしているのだろうか。

では具体的に、どのような取り組みが進んでいるのか。

櫻木
「MRAでは各分野のプロフェッショナル5、6名がプロジェクトに関わっています。私がMRA側のプロジェクトマネージャーで、MRIとの調整や、業務の上流工程の設計などを行っています。チームでは主に数値計算を行うほか、サービス化に必要不可欠なサーバーの構築、各種システムの開発など幅広く行っています」
老田
「私の業務は、電力需要を予測する数値計算や機械学習、つまりAI を使った需要予測システムの開発になります。例えば、寒波が来て電力需要がひっ迫するようなことがあります。現在、そのような電力需要を上下させるファクターには何があるのかを理解して需要予測を行っており、基本的に前日までの需要や気象データを使って次の日の予測をしています。前日までのデータを使用するのは、計算に時間がかかることに起因するのですが、計算がより速くなれば、数時間前や数分前のデータを用いた予測が行えるようになるかもしれません。私は『どうすれば予測精度を上げられるか、どういった手法が考えられるか』といったことを中心に、割と自由に取り組ませていただいています」
櫻木
「ここ数年でAIが大きく注目されています。本領域における技術の進歩は目覚ましく、最新の技術情報を常にキャッチアップすることが重要になります。そのため、技術開発に取り組みながら電力にも興味を持てる人材が必要であり、現在MRAでは電力に加えて分析技術の知識に精通する人材の育成強化を図っています。外部の協力を得るという考えもありますが、逆に我々のノウハウが流れることは避けたいものです。このため、MRIグループとしてプロジェクトに開発資金を投資し、MRAでは技術開発や体制づくりを進めています」
老田
「そして、AIによる需要予測システムの開発には、実際の結果と比較する実証実験が重要です。開発、検証、ブラッシュアップ、さらにまた検証といったことを繰り返しています。顧客はより価値あるシステムを導入したいと考えており、我々には限りなく正確に予測できるものを生み出す使命があると考えています。国は、安定して電力を販売できる事業者を求めており、顧客はその認可を取らなければなりません。国の定めた基準をきちんとクリアできるシステムを作って納めることが次のマイルストーンです」

苦労した点もあったのでは。

櫻木
「先ほどの実証実験やシミュレーションに絡んで、実験値や実測値を知りたい場合があると、設備機器の製造者や運用者から情報を提供していただくことになります。しかし、従来型の電力設備は、電力会社の内部でのみ扱えればよかったため、一般の人々が扱える形では整備されていません。そのため、シミュレーションのインプットデータを作成することが困難でした」
老田
「しかし、MRAがこれまでに培ったデータサイエンスの知見により、電力分野のデータを効率的に整備・解析することで、現在はその困難を乗り越え、シミュレーションに役立てています」

一般の人が扱える必要があるのか。

櫻木
「今、電力事業は転換期を迎えています。再生可能エネルギーの発電事業には、個人・法人を問わず参入が増えており、今後、需給関係について誰かが調整しなければなりません。その時に、電力会社や設備会社、発電事業者、仲介する商社などが、情報を共有しやすくすることは重要です。消費者も電気の単価が高い需要のピーク時よりは、安い時間帯に使いたいはずです。ですから、一般の方々も分かる形で、電力需給の状況を示していかなければならないと考えています」

03
成果と展望

実用化に向け、着実に計算精度を向上
さらなる社会分野への活用も見据える

高い予測精度だけでなく、誰にでも分かりやすい情報発信まで見据えたシステムなら、社会へ現実的な影響を与えることが大いに期待できる。今はまだ、その道半ばといったところだが、具体的に目に見えた変化も見えつつある。それは、現時点での成果として評価されてよいものだろう。

これまでに、どのような成果を得て、さらに何を目指しているのか。

櫻木
「現在までの成果としては、やはりエネルギー需要の予測を、高精度で行えるようになったことです。お話ししてきたような電力の流れやリソースについて将来予測ができており、エネルギーを最適に扱うための新しい社会の在り方をMRIグループとして提案し始めています」

「そして、今後はシステムです。設備会社が持つデータをAIが自動で受け取って学び、賢くなっていくことによって、売電ニーズが来た時に需要データをスムーズに提供できるような、実用に耐えうるシステムを完成させることを目指しています。社会におけるエネルギー運用の在るべき姿に向けて、そこがまた一つのスタート地点になると思っています」
老田
「『高性能なAIとは、どのようにして作るのか』というノウハウや手法、知識などはもちろん蓄えられていると思います。また一般的に、AIは様々な分野で活用できる汎用的な技術であると認識されていますが、実際に自分でも手を動かし、AIで電力需要を予測することに取り組んだ経験は、他の分野にも活かせることを実感しました。同じようなデータを利活用するためのアイデアが持てた、いい経験になったと思います」

「いま、事業部内では介護分野で情報のデータハンドリングなどを行っており、AIの導入やデジタル化を推し進めているところです。そして今後は介護に限らず、MRAが手掛ける他の事業分野でもAI技術の導入に取り組んでいきたいと考えています」

今後の展望は。

櫻木
「我々が今求められていることはアウトプットです。データを扱う人間として、世の中に直接役立つものを出していかなければならないと考えています。その意味では、MRAはMRIとの密な協力により、各分野のエキスパートが技術を最大限に活用し、迅速にアウトプットを出せています。MRAの今までの技術の蓄積が、MRIとの協業によって社会実装の観点で活用できている好例だと考えています」

「今後、老田をはじめ、若手が今回の知見を活かし、様々な分野において次世代の専門家になることを期待しています。現在の電力事業を起点に、データを扱える人間が専門知識を持って社会実装を行う、という流れが作っていけるのではないかと思っています」

「また、今回の電力需要の話は、あくまでスタートでしかないと思っています。もっと広い視点で国の電気の今後を見据え、世の中に最適な電気の在り方を、データ解析技術に基づいた知見から示していきたいと考えています」

Formation