MRI Research Associates
社会システム事業部 都市・地域インフラチーム
PROJECT STORY02
どこに、どんなものがあるのか、よくわかる
その恩恵が、これからも広く社会に行きわたるよう
初めての場所を訪れるとき、「目的地の情報」や「行き方」を、多くの人が事前にネットやアプリで調べるだろう。
今ではスマホなどで、目的地や道程が気軽にわかり、目的以外の情報もたくさん飛び込んでくる。
しかし、それは本当に、誰でも簡単に見ることができて、よいものばかりなのだろうか。
これら「地理空間情報」と呼ばれるデータの流通を、どのように推進すべきかが問われている。
盛田 太郎

社会システム事業部
都市・地域インフラチーム
事業リーダー
2014年入社
公共政策大学院 経済政策コース専攻 修了

入社して最初の配属先で交通分野に携わり、車両やインフラ、特に道路地図を扱った経験が、現在の仕事に活きている。インバウンドの実態調査などで出張し、さまざまな場所を訪れる魅力に目覚め、プライベートでも旅行へもよく行くように。普段の休みは、読書や近場の美術館巡りを楽しんでいる。

Taro Morita
密原 大豪

社会システム事業部
都市・地域インフラチーム
研究員
2019年入社
経済学部 経済経営学科 卒

大学では金融工学を専攻。そのベースにある経済や統計に関する知識を活かして業務に励む日々。また、大学時代から地方創生に興味があり、仕事で社会貢献したいと考えている。出張も多く旅好きで、旅先では街歩き、寺社仏閣や博物館などの見学で、その歴史や風土に思いを馳せる時間を大切にしている。

Taigo Mitsuhara

01
プロジェクトの背景/目的

便利な情報だが、誰かの権利を侵してはいないか

「地理空間情報」という言葉をご存知だろうか。きっと、いちばん身近なものは、スマホなどで利用している「デジタルマップ」だろう。位置を表す緯度・経度といった数値情報に建物などの地物を紐づけることで「どこに、どのようなものがあるか」を表現できれば、さまざまなサービスで活用できるデータとなる。周辺施設を検索して、行先までのルート検索や案内を可能にする便利ツールも実現する。

いまでは、高度化した測量技術を用いることでさまざまな場所や建物の情報を詳細にデータ化することも可能となった。こうした情報を公開・流通させることで、かつてない問題が発生する恐れがある。もしかしたら、「地理空間情報」の公開・流通のルールの見直しが必要となるかもしれない。現行の法令や制度を見直すため、既存制度や過去事例の調査が始まった。

「地理空間情報」を取り巻く環境は、どのように変化しているのか。

盛田
「地理空間情報」分野のデータ流通量が、著しいスピードで増加しています。まず、測量技術が高度化していることで、データがより大容量化しています。例えば、実際の建物などを丸ごとスキャンした点群データ(※)などは現実を再現できるほどに細密です。そして、この大容量なデータに対応できる高性能パソコンや高速通信回線が普及したことも、データの活用・公開の拡大を促しています。ところが、データと技術の拡大速度に、社会の制度(ルール)の更新速度が追い付いていない部分もあるのです。
密原
例えば、スマホが登場したばかりの頃は、地図サービスは使えたかもしれませんが、高画質の3次元空間画像を閲覧するなどということはできませんでした。パソコンですら3D画像を扱うには高度な編集ソフトや、ハイエンドな高性能パソコンが求められました。それが今では、市場に流通するミドルスペックのパソコンであれば簡単です。3Dバーチャル空間に入ってアバターで自由に動き回れるコミュニケーションサービスなども拡大し始めていますが、これは処理能力が高いパソコンやスマホが普及してきたためです。そしてオンライン上では、より充実した地理空間情報が流通するようになりました。自由に使える背景地図や、位置情報付きのデータを、今は簡単に入手・閲覧することができます。
盛田
こうした進歩は、もちろん社会に有益なことです。しかし一方で、新たな問題も引き起こしうるものです。まず、測量技術が高度化したことで、これまで鮮明に取得できなかったものまで取得できるようになりました。例えば、風景の撮影で遠く離れた人が写り込んだ際、少し前の機材であれば解像度が低く誰かを特定することはできなかったものが、最新の機材だと特定できてしまう。当然、このような解像度の高い写真をむやみに流通させることは問題です。著作権法に関していえば、写り込みに関する法改正が最近なされました。でも、それが写真ではなく3次元のレーザー点群データ(※)であったらどうなのか。日々進化する技術に対し、現行法令や制度で充分なのか考えなければなりません。そのため、既存の制度や問題となった事例を調査し、調査結果を踏まえてルールの見直しをする必要があります。主にこの調査と報告を官公庁から依頼されたのが、今回ご紹介する「データの活用・流通に向けた制度設計に関するプロジェクト」です。
※レーザースキャナーで取得。建物など対象となる地物にレーザーを当て、その1点1点の反射を読み取ることで、対象物の位置や構造を丸ごと「点の集まり」として表現したデータ。

02
業務の進行・苦労

さまざまな制度調査の実績と、道路交通分野で培った知見が強み

国や自治体が定める現行の法令や制度、あるいは地理空間情報の利用者や整備主体の現況などを調査した上で、その中身を分析する必要がある。地理空間情報分野に関わる部分にフォーカスした法令の調査・検討が求められる

盛田
「先ほど挙げた著作権法でいえば、著作権法の条文全てが地理空間情報分野に関わるわけではありません。例えば、映画や演劇などにおける権利などは、当プロジェクトには関係ないものです。しかし、法令の中から地理空間情報に関わる条文だけを見分ける作業は、誰にでもできるものではありません。もちろん法律の専門家なら条文の意味はどれも理解できるでしょうが、それでもどの条文が地理空間情報分野に影響するものなのかは、この分野について知っている者にしかわからないと思います」
密原
「いわゆる先進事例では、個別に専門家などへ相談を実施した事例等もあるため、重要な調査対象です。そのため、独自に取得された3次元データや高解像度データをすでに公開・活用されている主体などの先進事例を対象に、Web調査や直接のヒアリングを実施します。データを独自に運用されてきた中で得られた知識や教訓、できれば苦労や裏話なども聞き出すことができれば有意義です。こういった各種調査が第一歩となり、最終的にはお客様への報告や、報告に基づくドキュメント作成までMRAが担います」
盛田
「そして地理空間情報の分野では、データ提供者側の視点からの制度調査に加えて、データ利用者側の視点も重要です。より高精度になり、有益な情報がつまったデータを、測量した者だけが所持・利用しているだけでは、もったいないと思います。データを相互に流通していくための制度や、その基盤づくりも検討していくことが、この分野で主に私が担当しているところにはなります」

このような調査業務を、よく受注しているのか。

密原
「MRAでは、さまざまな分野における制度調査を手掛けてきました。これまで道路交通分野での事業にずっと取り組んできて、同分野の地図・地理空間情報にも知見があることから、今回のプロジェクトも国からご依頼いただけたのではないかと思います。この取り組みの中で、道路地図をより高精度にしていく必要があることを、MRAではずっと認識してきました。今後期待される自動運転の実用化には、道路のどの位置を走行しているのか、車両が自分でリアルタイムに判断できる技術の確立が必要だからです」
盛田
「それには、車両自らが判断できる技術だけでなく、判断の基となる地図側にも高い精度が求められます。例えば、実際は3車線の道路なのに地図上では車線の区切りがない単車線の道路だとすれば、車両はレーンチェンジができません。高精度の地図はこの問題の解決策の一案であるのですが、そこで細かい問題が出てきます。例えば、車線の区別をデータとしてどう持たせるのか。車線に番号を振るなら、1-2-3でいいのか、国際的にはどうなっているのか。そんな、地図に関する制度設計の調査・検討に昔から携わってきた実績がMRAにはあるんですね」

いちばん苦労した、でも重要なこととは。

盛田
「プロジェクトでは『委員会』を設け、幅広い観点でご意見をいただくことを目的として、知見のある有識者や学識の経験者など、先進的な取り組みをされている方たちを委員としてお招きします。ご専門の異なる委員が参加することになるため、『議論の論点が分かりにくくなる』『多くの議論をいただくなかで重要な論点の議論が十分に尽くせない』といったことも起こりがちです。シンクタンクは委員会の事務局として、委員の皆様ができるだけご意見を提示しやすくなるよう、事前説明や資料作り、当日の進行方法などに配慮しています」
密原
「プロジェクトの中で委員会は複数回おこなうことが多いです。初回の方ではさまざまな論点が出てくることが望ましいですが、一方で後半の委員会ではできるだけ意見の集約、全体の合意といったことを図りたいものです。それには、やはり委員会前に事前説明をして、何かご意見はないか伺っておく。お聞きしたことを委員会までに資料等へ反映させておけば、まとまりのある議論になりますし、より実りある委員会になります」

「円滑な委員会の進め方も含め、盛田さんや他の上司から学ぶ機会は多いです。入社1年目のことですが、タスクとして与えられた作業を全く進めることができず、お客様からもお叱りを受けてしまった経験がありました。その際、盛田さんから、まずはプロジェクト全体から見た作業の位置付けを整理することが重要だとアドバイスいただき、その上で私の頭の整理をサポートいただきましたよね。部下をよく見てくださり、適切なアドバイスをもって若手の成長を促してもらえることが、この会社の良さだと思っています」

03
成果と展望

データを制作する側にも、利用する側にも、よりハッピーな未来へ

このプロジェクトは、調査の結果を報告書にまとめ、必要に応じプレゼンテーションなども実施して、成果品をお客様に届けることが基本のミッションだ。しかし、それより大事かもしれないことがあると、プロジェクトのメンバーはいう。

盛田
「今回のプロジェクトでも、お客様の今後の政策・事業のあり方を決めたり、古くなった制度やドキュメントを時流に合わせたりすることができました。求められていたことにお応えできたと思います。お客様からは『政策に対する理解を深めることができた』『今後につなげることができた』といった評価をいただけましたので」

「しかし、シンクタンクとしての価値は報告書の中身に留まらないと思っています。報告書を作るまでの調査方法や、どのような議論をお客様と重ねてきたかなど、成果を『お客様とともに作り上げた』ことに価値を見出してくださるお客様がいるからです。今回も、一緒に議論して考える相手を求めているお客様でした。議論の中で新たな課題に気づき、別の事業へ将来発展していくキッカケとなり、そのことを成果として評価していただきました。私たちとしても、お客様との関係を徐々に強固なものとしていくことができ、お客様とその背景にある課題を理解し、仕事とお客様を広げられたと考えています」

今後、この分野で取り組むべきことを、どう考えるか。

盛田
「一つ挙げるなら、データを制作・提供する側のサポートです。いまオープンデータという『いろいろなデータを、どんどん使えることがよい』とする概念が広まっています。データを利用する側にとって、無料や安価でいろいろなデータが使えることのメリットは大きいですよね。使えるデータが多いほど、新しいサービスも生まれやすくなります」

「けれども、そういった環境を維持するには、データを制作・提供する側にはどれだけの工夫や苦労があるのか、そこに目を向け何らかの形で支援・補填しなければいけない。私たちは、その声を聞きに行かなければならないのかもしれません。この課題に向き合い、解決する余地があると考えています」
密原
「私は、利用者側にも目を向けています。交通関係の仕事にも携わる中で、交通事業者にはデータを取ることも扱うこともできないという、特に中小・零細の事業者がいることを見てきました。今、データを利用しているのは、ある一定レベルのIT・デジタルのリテラシーをもつ人に限られています。もっと幅広い人たちがデータを取得でき、利用していける世の中になる必要があり、これから取り組んでみたい課題のひとつです。まずはお客様のご満足があってですが、その先は社会へとつながっているのが、ここでの仕事です。MRAで携われることを通じて、少しずつ社会を良くしていくことに貢献していきたいと思っています。
盛田
「地理空間情報の利活用は今後も進むと思われ、技術もさらに進化していくことでしょう。新しいものをキャッチアップして、その裏側にある課題にもしっかり目を向けていくことが、私たちの使命の一つだと考えています。ですから、これからも私は新しいものを『面白がる』姿勢を持っていきたい。つねにオープンな視点を大切にしていきたいと思います」

Formation