MRI Research Associates
社会システム事業部 次世代モビリティチーム
PROJECT STORY01
「ダイナミックマップ」の多用途での利用の道を拓け
最近とみに注目度が上昇している自動運転。
その要となるのが、次世代の高精度3次元地図データ「ダイナミックマップ」だ。高精度ゆえ、その利用は自動運転に留まらないはずだ。
「ダイナミックマップ」のポテンシャルを検証し、多用途での利用の道を拓くべく、プロジェクトが立ち上がった。
中尾 昌史

社会システム事業部
次世代モビリティチーム
チームリーダー
2004年入社
理工学部 交通土木工学科 卒

建築家を目指すも住宅だけつくるのでは物足りないと、「より大きなものづくり」に携わるべく、大学では交通土木工学を学び、MRAへ。休日は、二人の子供と一緒に過ごすことが多い。

Masashi Nakao
牧野 夏葉

社会システム事業部
次世代モビリティチーム
2014年入社
工学研究科 建築学専攻 修了

大学時代は、まちづくりや地震防災への対応を学び、MRAへ。休日は、観光場所や飲食店の情報収集(ネットサーフィン)、年代が近い社員の人たちとまち(食べ)歩きや、読書をしていることが多い。

Natsuha Makino

01
プロジェクトの背景

自動運転の要、「ダイナミックマップ」の利用方法を検討

車に乗って、行先を指定するだけで、自動で目的地まで連れていってくれる自動運転。そんなマンガのような世界が、今ではリアルな技術として認識されるようになってきた。ただし、そのためには一層の技術の進歩が欠かせない。その対象とされているのが、車載センサやAI(人工知能)、そして、「ダイナミックマップ」だ。では、そもそも「ダイナミックマップ」とは何だろうか?プロジェクトを担当した、社会システム事業部の中尾昌史と、同メンバーの牧野夏葉に聞いた。

中尾
「車が事故なく安全に自動で運転するためには、車に搭載されるセンサで検知される情報に加え、センサで検知できない範囲の道路の形状やセンターラインの位置、ガードレールや道路標識といった構造物の正確な位置情報が必要になります。ダイナミックマップとは、簡単に言うと道路の線形やセンターラインをデータ化したものと思ってください」
牧野
「高精度3次元地図データは、『MMS(Mobile Mapping System)』というシステムを搭載した車両にて、道路を走行して計測し取得します。この情報に、渋滞情報などの付加的情報を組み合わせてダイナミックマップを作成します」
中尾
「高精度3次元地図データ・ダイナミックマップは自動運転での利用を目的に整備が検討されていますが、それ以外の用途でも使えるかもしれません。もし、ダイナミックマップを自動運転以外の用途でも利用できれば、他の産業の発展・効率化につながるかもしれません。そういった可能性を探るために行われたのが、今回携わった『戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)・自動走行システム』の『自動走行システムの実現に向けた諸課題とその解決の方向性に関する調査・検討におけるダイナミックマップの多用途利用に向けた実現可能性の調査検討』プロジェクトです」

02
MRAの取り組み

多用途利用に必要十分なデータを見極める

自動走行システムは、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP:エスアイピー)」(※)のテーマの一つとして2014年から調査検討が開始されているが、「ダイナミックマップ」の多用途利用に向けた検討が開始したのは、いつからのことなのだろうか。

※「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP/Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Programの略)」:内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクト
出所)内閣府、SIPとは | SIP 戦略的イノベーション創造プログラム、内閣府ホームページ、2019/02/18引用
中尾
「ダイナミックマップの多用途利用の検討は、2016年度から始まっています。最初は、ダイナミックマップを利用できそうな用途の候補を多数挙げて、その実現可能性を探るところから始まっています。私たちが取り組んだプロジェクトは、2016年度の検討結果から実現の可能性が高い3分野を対象に現状の業務分析をもとに机上での検討を実施したうえで、実証実験による検証を行いました。3分野のうちの一つは、道路台帳附図の整備・更新での利用可能性です。各自治体の道路管理者は、道路の種類や路線の基本的な情報、トンネルなどの情報を詳細に記した道路台帳附図の作成が道路法で義務付けられています。現状、その作成や更新を行う際は、都度、現地に向かい測量を行わなければならず、人手やコスト、時間がかかっている状況です。そこで、ダイナミックマップを利用することで、道路台帳附図を効率的に作成・更新することができないか検討することになりました」
牧野
「2つ目は、除雪支援業務での利用可能性です。豪雪地帯では、降雪によってガードレールやマンホールが見えなくなってしまうことが少なくない状況です。除雪車の操作時には、どこにガードレールやマンホールがあるかといった長年の経験が必要となりますが、除雪支援業務の従事者が高齢化しており、新たな担い手の不足による技術継承が現状課題となっています。そこで、安全な走行支援を行うためにダイナミックマップが利用できないか検討することになりました」
中尾
「3つ目は、電力事業者や通信事業者が行っている電線、電柱の管理です。電気や通信は社会生活の重要なインフラですから、管理している事業者は定期点検や臨時点検、修理対応など、私たちが想像している以上に電線や電柱のメンテナンスを行っています。しかも、その都度、工事箇所の周辺状況を下調べして、工事や点検に必要な情報を確認してから現場へ向かっているのです。また、点検業務にあたっては、これまで形状の変化箇所などを目視で確認していました。そこで、ダイナミックマップを利用することで、データ上で形状変化を管理する、現地への下調べを代替するなど、業務効率に貢献できるはずと考え、検討することになりました」

その3分野への利用の可能性を探るため、具体的には何をしたのか。

中尾
「簡単に言えば、どのようなデータが求められているのか、求められることを実現するために高精度3次元地図データの作成方法をどのように変更するのかなどを検討しました。例えば、電柱の管理をするうえで、電柱の先端の高さまでデータを取る必要があるのか。用途を自動運転に限れば、電柱の先端までデータを取得する必要はないわけです。それを取得するとなった場合の技術的なハードルや取得したデータを転用できるのかという検証は、実際にやってみなければ分かりません。そこで、ある地域の道路を対象に、実際にMMSを走行させてデータ取得の実験を行っています」
牧野
「また、データを利用したい企業側としては、必要なデータはすべてほしいというのが本音でしょうが、自動運転用のダイナミックマップの整備に大きな変更が必要となってしまっては問題です。そのため、業務を作業ごとに細分化して、既存からの変更点や変更することによる効果、データの品質やコストへの影響などを整理し検討しました」
中尾
「本プロジェクトは複数の会社とコンソーシアムを組んで実施しています。MRA以外の各社はこれまでの業務経験を踏まえ、各分野の利用可能性の検討および実証実験で取得したデータの分析などを行いました。MRAは、PMO(※)のような立場で、各社が検討する専門的な内容を正確に理解しプロジェクト全体に反映するとともに、プロジェクトの進捗管理や遂行支援、報告書の作成などを担当しました。実証を行う際には当初想定していた仮説どおりとならないこと、様々要因によりスケジュールが変更となってしまうこともあり、プロジェクトの全体進捗の管理や成果のとりまとめに苦労しました」
※PMO(Project Management Office/プロジェクト・マネジメント・オフィス):プロジェクトで必要なマネジメントの支援を横断的に行う組織・機能のこと

03
プロジェクトの成果/今後の展望

多用途利用を促進し、自動運転の普及に拍車をかける

実証実験を踏まえた検討の結果、「ダイナミックマップ」の多用途利用に向けた道は拓けたのだろうか。

中尾
「今回、検討した3分野について、計測機材やデータの取得範囲、3次元地図データの生成に対して追加要件があるものの、利用可能性があることが分かりました」
牧野
「さらに計測作業でも作業工程の追加などが生じることが分かりましたが、実証実験により、追加する作業工程も含め効率化しつつ精度を確保する手法も検討できました」
中尾
「多用途での利用が現実のものとなれば、ダイナミックマップの整備コストを多くの主体で負担することとなり、ダイナミックマップの整備の加速、自動運転の普及にもつながっていくはずです。そのためにも、今後も多用途での利用の可能性を探り、新たなビジネスの創出にもつなげていければと思っています」

Formation