連載企画:国内外の資源循環及び自動車リサイクルに関する政策動向(全5回)~【第3弾】韓国の政策動向~

2025年7月25日

 本コラムでは、全5回にわたり、各国の資源循環及び自動車リサイクルに関する政策動向の概況を紹介しています。第3弾では、韓国の政策動向について紹介します。

 本調査は一部を除き2025年4月頃までの各国政府の公開資料、研究機関の先行研究、報道機関のニュースリリース等から情報を整理しており、公開時点の最新状況を反映できていない可能性があることにご留意ください。

韓国の政策動向のポイント

1. 自動車のリサイクルに関する政策動向

 韓国の使用済自動車(ELV)に関する法制度としては、1960年代と早い時期に自動車管理法(当時は、道路運送車両法)が施行され、自動車の登録から廃車までの一連のサイクルに関する安全・環境・管理基準が規定されました1。その後、1987年に施行された廃棄物管理法では、廃棄物の適正な処理を目的とし、廃棄物の分類基準・処理基準・処理計画などが規定され、ELV由来の廃棄物についても、本法に従って処理されることになりました2

 こうした自動車管理法や廃棄物管理法などに基づき、ELVからの廃棄物の処理が行われてきましたが、廃棄物を処理するだけでなく、再利用する取組が進展しはじめ、2008年、本格的に自動車のリサイクルを推進するため、「電気・電子製品及び自動車の資源循環に関する法律」が施行されました3。本法では、電気・電子製品と自動車のリサイクルを促進し、資源を効率利用するための資源循環システムを構築することを目的としており、電気・電子製品と自動車への有害物質の使用制限や、廃電気・電子製品と廃自動車のリサイクルシステムの構築を求める内容となっています。本法は、EUのRoHS指令、WEEE指令、ELV指令をまとめた構成となっており、韓国版RoHS・WEEE・ELV指令とも呼ばれています。本法の施行令では、廃自動車重量基準で95%以上をリサイクル又はエネルギー回収(エネルギー回収は10%を限度とする)するという目標が設定されています。

 2018年には、廃棄物の発生量を最小限とするとともに、廃棄物の再利用による埋立処分量の低減を目的として、資源循環基本法が施行されました。廃棄物の再利用の推進だけではなく、廃棄量自体を減らしていく内容となっています。

 さらに、2024年には、資源循環基本法を全面改正した、循環経済社会転換促進法が施行されました4。本法は、生産・流通・消費等のすべての過程で、循環経済社会への転換促進に貢献することを主な目的としており、資源の節約や効率的な利用、循環資源の活用なども考慮した内容となっています。例えば、使用済バッテリーは本来、廃棄物規制の適用を受けていましたが、使用済バッテリーの用途が再製造・リユースである場合には、循環資源として指定することで企業の規制負担を緩和することなどが盛り込まれています。

 このように、韓国の自動車リサイクルに関する法制度は、廃棄物の適正処理から、廃棄物のリサイクル、廃棄量の低減、資源循環の実現、といった流れで進化してきているところです。

表1 韓国の自動車リサイクルに関する主な法制度の概要
韓国の自動車リサイクルに関する主な法制度の概要

 

2. 自動車のリサイクルに関する現況

 韓国における、自動車の製造から廃棄・リサイクルまでの一連のフローは、図1に示す通りです。韓国国内の自動車走行台数は、2023年で約2,595万台となっています。中古車は、韓国国内の取引台数は、約243万台です。韓国の中古車輸出量は、輸入量よりも多く、主な輸出先は、リビア、ヨルダン、トルコ、エジプト、キルギスタン、ロシア、モンゴル、ルワンダとなっています。

 韓国における年間のELVの排出台数は約81万台(2023年)であり、これは国内運行車両のうちの数%程度となっています。韓国では、自動車の廃車周期は、購入した自動車を初めて登録した日から登録を抹消する日までの期間となっています。中古車の場合でも登録の更新が必要になるため、初回購入時の記録は追跡することができます。

 韓国では、ELVは「解体業者」「排気ガス処理業者」「破砕業者」「破砕残渣リサイクル業者」などの関係業者を経てリサイクルされます。解体業者は、車両を解体し、そこから法定分離品目(触媒・バッテリー(鉛蓄電池を含む)・バンパー・触媒・不凍液・エアバッグ)を回収しています。韓国で発生する自動車破砕残渣(ASR)は、廃車重量の約25%であり、鉄・非鉄金属以外はほとんどリサイクルされずに焼却されています5

図1 韓国における自動車の製造から廃棄・リサイクルまでのフロー
図1 韓国における自動車の製造から廃棄・リサイクルまでのフロー6

 

 ELVは、許認可を受けた解体事業場に集約され、リサイクルされています。自動車は、登録を抹消しない限り、税金、保険料、罰金を負担し続ける必要があり、自動車所有者はELVを放置せず手続きを行います。多くは、解体業者等が手続きを代行し、行政処理のための業者向け入力システムに情報を入力します。ELVにより発生した廃棄物は、韓国環境部(日本の環境省に相当)のAllbaro電算システム(日本の電子マニフェストに相当)に登録され、排出から運搬・最終処理までデータが追跡・管理されます7

 韓国では、生産者に対してプラスチック等の廃棄物の回収及びリサイクルに至るまでの責任を課す生産者責任再資源化制度が設けられていますが、使用済自動車や使用済バッテリーはこの制度の対象に含まれていません。ただし、タイヤやプラスチック素材の自動車メンテナンス用部品(例:バンパー、ウォッシャータンク)は対象に含まれています。2023年、韓国環境部は、電気自動車の使用済バッテリーを本制度の対象とすることを検討しましたが、バッテリー業界及び解体・リサイクル業界の強い反対により中止しています8

3. LiB、金属系資源、プラスチックのリサイクルに関する現況

1)LiB等のリサイクル

 韓国環境公団9によれば、2030年頃には国内の使用済バッテリーは約11万個に増加すると推計されています。一方で、韓国のバッテリー関連企業は、バッテリーの原料をバッテリースクラップの買い取り、もしくは海外からの輸入により確保しています。バッテリーの原料の大部分は、EUからブラックマスとして輸入しており、SNE Researchの2024年発表資料によると、EUで発生した3万トンのブラックマスのうち、約70%を韓国が輸入しているとのことです。一方で、韓国国内では、登録抹消された電気自動車の8割以上が海外に輸出されており、自国内でのリサイクルが進んでいない状況にあります10

 こうした動きを受け、2024年7月、「使用済バッテリー産業育成のための法・制度・インフラ構築法案」が公表されました11。これは、使用済バッテリー全体を統合した法律で、使用済バッテリーの定義、事業者登録要件等が規定される予定です。本法律に基づき、2026年度までに各省庁がバッテリーの各サイクルに関する履歴管理システムを構築し、2027年度に全体システムを構築する予定です。また、2025年から、使用済バッテリー由来のコバルト・ニッケル等を再生原料として認証する「再生原料認証制度」を導入し、EU等の規制への早期対応を図る予定です。

 

2)金属系素材のリサイクル

 2023年、韓国では重要鉱物資源のサプライチェーン安定化のための「核心鉱物確保戦略」を発表しました12。本戦略では、リチウム、コバルト、黒鉛などの特定国からの輸入依存度が80%以上の鉱物資源について、2030年までに輸入依存度を50%台に引き下げ、2%台となっている重要鉱物資源のリサイクルの割合を20%台に引き上げるとしています。重要鉱物としては、リチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、黒鉛、希土類(セリウム、ランタン、ネオジム、ジスプロシウム、テルビウム)の10種類を指定しています。戦略の中には、「電気自動車、二次電池などの使用後に発生する廃資源をリサイクルできる循環体系を構築する」ことも盛り込まれており、自動車リサイクルにも影響を与えることが想定されます。

 また、2024年の循環経済社会転換促進法の施行により、循環資源指定・届出制度が設けられました(表2)13。例えば、スクラップメタルや電気自動車用廃バッテリーが循環資源に指定されています。この指定を受けることで、循環利用の用途・方法・基準を満たす範囲内では廃棄物とはみなされないため、廃棄物管理法の規制を受けずに流通が可能となっています。

表2 循環資源の区分及び循環利用の用途
循環資源の区分及び循環利用の用途

 

3)プラスチックのリサイクル

 韓国では、廃プラスチックの排出量や廃プラスチック由来の再生原料の生産量、再生原料の使用量などの公的な統計調査は実施されていませんが、Jang Yongchul.(2023)の推計14によれば、韓国のバージンプラスチック製品生産量は約693.8万トンあり、そのうち約9%が自動車産業で使用されているとしています。

 韓国における廃プラスチックの名目リサイクル率は約70%ですが、その半分以上が熱リサイクル・焼却で、再生プラスチックに利用される割合は27%程度と推定されています15。2021年のデータによれば、プラスチック原料生産企業の再生原料投入比率は0.2~1.8%程度であり、高品質の再生原料は需要に比べて供給が不足している状況です16。2022年に廃プラスチックの輸入は禁止されましたが、再生プラスチック原料は輸入が可能で、日本などから調達しています17

 韓国では、リサイクル事業者は中小企業が多く、化学リサイクルの実証などへの大規模な投資が難しい状況にあります。そのため大企業がリサイクル事業に参入しはじめましたが、中小企業は大企業の参入による経営圧迫などを恐れて政府に調整を要請し、その結果、2022年11月に大企業と中小企業の役割を分担させる「プラスチックリサイクル業大中小企業共存協約」が締結されました18。この協約では、大企業は、既存の中小企業が既に担当する分野への参入・拡大は控え、化学リサイクルや高品質の製品製造に注力することが示されています。

4. まとめ

 韓国でも、自動車リサイクルに関する法制度を時代に合わせて更新し、運用を進めています。ELVの回収及び適正処理・リサイクルの仕組みが確立され、排出から運搬・最終処理までのデータが管理されています。しかし、ASRの鉄・非鉄金属を除くほとんどが焼却処理されているといったリサイクル面での課題が生じています。また、韓国におけるバッテリーの原料の安定的な確保に向け、2024年に「使用済バッテリー産業育成のための法・制度・インフラ構築法案」が公表され、バッテリーのリサイクルの推進に注力する方針が示されています。この制度は、今後自動車リサイクルの取組にも影響することが想定されます。