連載企画:国内外の資源循環及び自動車リサイクルに関する政策動向(全5回)~【第4弾】EU の政策動向~
- エム・アール・アイリサーチアソシエイツ株式会社
- サステナビリティ事業部 渡邊円、小林和樹
本コラムでは、全5回にわたり、各国の資源循環及び自動車リサイクルに関する政策動向の概況を紹介しています。第4弾では、EUの政策動向について紹介します。
本調査は一部を除き2025年4月頃までの各国政府の公開資料、研究機関の先行研究、報道機関のニュースリリース等から情報を整理しており、公開時点の最新状況を反映できていない可能性があることにご留意ください。
EUの政策動向のポイント
- EU全体で使用済自動車の廃棄・リサイクルに関する指令・規則を設けています。回収率やリサイクル率等の目標値も積極的に掲げており、EU市場で販売を行う国にも大きな影響を与えています。
- 現行の使用済自動車(ELV)指令では、使用済自動車の処理は各国の国内法に委ねられており、EU全体で統一されたプロセスは存在していません。現在、ELV指令をより法的拘束力の大きな規則に格上げするための議論が行われており、今後の動向が注視されます。
- EU電池規則では、使用済電池のリサイクル率やリサイクル材料の使用率の目標が設定されており、バッテリーの製造情報などの電子記録の登録が義務付けられています。さらに、2025年3月に電池リサイクル残渣(ブラックマス)は廃棄物リストに追加されたことで、EU域外への輸出が制限されるようになり、ブラックマスのEU内での確保が強化される見込みです。
1. 自動車市場の現状とリサイクル政策
EUでは、自動車の保有台数が2.5億台を超え1、毎年約470~600万台のELVが発生していることから、自動車分野は域内最大規模の製品循環市場の一つを形成しています。こうした中で、ELVの適切な処理と、有用資源の回収・再資源化は、EUの循環経済戦略及びグリーンディールの要となっています。

図1 EU域内の自動車フロー
図1に示す通り、EU域内では毎年約1千万台の新車が登録2されており、そのうち約390万台はEU域外からの輸入車3となっています。これらの輸入車の大半は新車であり、中古車の輸入はほとんど行われていません。自動車の平均使用年数は2024年時点で12.3年とされており4、毎年約470~600万台がELVとして報告された上で適切に処理され、重量ベースで89%程度が再利用・再資源化されていると推定されています5。
しかし、すべてのELVが報告されているわけではなく、一部は制度の抜け穴を通じてEU域外に流出しているのが現状です。現行のELV指令では、ELVは廃棄物とみなされ、バーゼル条約に基づいて、環境的に適正な処理先への輸出のみ許可されています。一方で、中古車については特段の規制がなく、そのためELVを中古車と偽って輸出する「脱法的な輸出」が問題視されています6。このような「脱法的な輸出」により、毎年350万台程度がその後の動向が確認できない「行方不明車両」となっており、その多くはEU域外で適切な処理を経ずに埋め立てられていると考えられています。また、毎年80万台程度の中古車が主にアフリカ諸国に輸出されていますが、その多くは老朽化が進んだ車両であり、排出ガスの問題や交通事故のリスクが指摘されています7。
EUでのELVの廃棄・リサイクルプロセスに関しては、現行のELV指令(2000/53/EC)8では、処理プロセスにおいて除去・取り外すべき部品・素材は示されていますが、具体的な処理プロセスについては明文化されていません。そのため、この指令を踏まえて国内法で処理プロセスを定めることとなり、現在、EU全体で統一された廃棄・リサイクルプロセスは存在しないと言えます。今後は、後述の規則化で処理方法を定めることで、リサイクルの質が向上すると考えられます。
2. 廃車に影響する要因・政策全体像
EUには「指令(Directive)」と「規則(Regulation)」という2つの主な法律の形があります。「規則」は、すべての加盟国に対して直接適用され、各国が国内法を整備することなく法的効力を持ちます。一方「指令」は、法的拘束力を有する目標を定めた上で、その達成手段を各加盟国の裁量に委ねるものであり、各国は一定の期間内に国内法を整備して対応する必要があります。
現在、EUでは2000年に制定したELV指令に基づき、各国が整備した国内法を通じてELVの環境影響を抑える取組がなされています。しかし、先述の「脱法的な輸出」に加えて、自動車産業における原材料のEU域外からの輸入依存、ELV処理におけるプラスチックのリサイクル率の低さ等、いくつかの課題が顕在化しています。このような背景から、ELV指令と2005年に制定した3R型式認証指令を統合・強化して、新たに規則として制定する動きが進められています。
2023年7月にはELV規則案(COM (2023) 451 final)9が公表され、2025年1月には欧州議会(EP)による改訂案10が示されました。このEP改訂案に関しては、2025年2月に議会審議が行われ、6月には欧州議会の環境委員会(ENVI)及び域内市場・消費者保護委員会(IMCO)合同委員会での投票、9月に本会議での採択が見込まれています。
ELV規則案(EP改訂案)には、以下の6つの主な要件が示されています。
1つ目は、循環型設計です。材料や部品、コンポーネントの取り外しが容易な、循環性の高い車両設計が義務付けられます。また、全ての新規車両に対し、消費者や解体業者に対して部品の取り外し方法等の情報を提供するデジタルツールである「循環型車両パスポート」を付けることが義務付けられます。
2つ目は、再生プラスチックの使用です。自動車のプラスチック部品の原材料のうち、少なくとも20%を再生プラスチックとすることが義務付けられます。また、そのうち最低15%(全体の3%)は自動車由来の再生プラスチックである必要があります。再生プラスチックには、使用済製品由来のリサイクル材(ポストコンシューマ材)、生産端材(プレコンシューマ材)、バイオプラスチックが定義され、ケミカルリサイクル材の取り扱いについても検討されています。ELV指令では、重量ベースでの再資源化が求められていましたが、特にプラスチックの再資源化が進んでいないという課題があったことが、この要件の背景となっています。
3つ目は、ELVの登録・追跡及び中古車との区分の明確化です。先述の「脱法的な輸出」がこの要件の背景となっています。全てのELVを認可処理施設に引き渡すことが義務化され、同施設は全てのELVに廃棄証明書を発行することが義務付けられます。発行された廃棄証明書をもって、車両登録システムから抹消されます。また、加盟国間の車両登録システムを連結する電子システム(MOVE-HUB)を開発し、行方不明車両の発生を防止するとしています。中古車との区分を明確化するために、ELVを走行不能、技術的・経済的に修理不能、識別不能のいずれかに該当する車両と定義し、輸出を禁止します。また、中古車を輸出する際には、EU域内で共通の路上使用適性試験が義務付けられます。
4つ目は、ELVの処理方法です。処理の各工程に対して要件を定めることで、実効性の高い再資源化体制の整備を進めます。具体的には、ELV廃棄物と他の廃棄物の混合禁止や、希少資源(CRM)や有用資源(プラスチック、鉄、アルミニウム等)を含む可能性が高い部品の非破壊的な方法での除去・回収、再利用・再製造可能な部品の回収等が義務付けられます。現行のELV指令では、除去・取り外すべき部品・素材のみが示されているため、不十分な処理による低品質な金属スクラップの発生やプラスチックのリサイクル率の低さが、この要件の背景となっています。
5つ目は、拡大生産者責任(EPR)制度の導入です。自動車メーカーに対して、ELVの適切な処理の責任を持たせ、設計段階から環境負荷の低い材料を選択し、再資源化しやすい構造を採用すること等が求められます。現在は、メーカーとリサイクル事業者との連携が欠如していることが、この要件の背景となっています。
6つ目は、対象車両の拡大です。ELV規則では、農業用車両とオフロード車両を除くすべての車両(乗用車、小型商用車、大型車両(バスやトラック等)、二輪車、三輪車、軽EV、トレーラー)が対象となります。ELV指令では、乗用車と小型商用車のみが対象であり、規制は限定的なものとなっています。
これら6つの主な要件には、それぞれ制定日から一定の期間を経て段階的に適用される開始時期が定められています。最も遅い開始となるのは「循環型車両パスポート」義務化の要件で、制定日から84か月後の翌1日からの適用が予定されており、仮に2025年中に制定された場合、2032年頃に全ての要件が施行される見込みです。
表1 ELV規則案(EP改訂案)の主な要件の概要

3. LiBと金属資源のリサイクル政策
EUでは、2023年7月に全ての種類の電池を対象とするEU電池規則11が制定されました。ELV規則と同様に、2006年に制定された電池指令を前身とし、指令から規則に格上げされたものです。EU電池規則では、電池を用途に応じて、ポータブルバッテリー、産業用バッテリー、軽量輸送手段用(LMT)バッテリー、始動・照明・点火(SLI)用バッテリー、電気自動車(EV)用バッテリーの5種類に分類し、種類ごとに異なる要件を課しています。このうち、自動車に関連するのはSLI用バッテリーとEV用バッテリーの2種類です。
SLI用バッテリーとEV用バッテリーに対しては、リサイクル事業者に対する使用済電池の目標リサイクル率や、製造者に対するリサイクル材料の目標含有率を設定しています。材料ごとに目標が設定されており、また目標は段階的に引き上げられます。
表2 使用済電池の目標リサイクル率

表3 リサイクル材料の目標使用率

その他にも、SLI用バッテリーとEV用バッテリーに対しては、電池の表示・マーキング要件として、製造業者、製造日、原材料情報等の電池に関する情報のラベル表示義務や、分別回収シンボルの表示義務、それらを長期的に情報提供するための2次元バーコードの掲載義務があります。
また、EV用バッテリーに対しては、これらに加えてカーボンフットプリントに関する要件(申告義務、性能等級表示、最大閾値)や、バッテリーパスポートの要件が課されます。バッテリーパスポートとは、電池に関する様々な情報を保存する電子記録のことで、表示・マーキング要件で掲載が義務付けられる2次元バーコードから閲覧可能とすることが求められています。バッテリーパスポートはリサイクルされる時点で消滅しますが、リサイクル後の電池には元の電池のバッテリーパスポートに紐づけられた新たなバッテリーパスポートを付与しなければなりません。
EU電池規則では輸出に関する規制はされていませんが、電池由来の廃棄物に関する輸出に関する規制として、欧州委員会(EC)は2025年3月に「廃棄物リスト」を更新しました12。リチウムイオンを処理する過程で生じるブラックマスに専用の廃棄物コードが付与され、ブラックマスは有害廃棄物として分類されることとなりました。この変更により、バーゼル条約及び廃棄物輸送規則の下でブラックマスのEU域外への輸出が制限され、輸出の適切な管理とEU内での確保が強化される見込みです。
このように、ELVや電池等の製品単位でのリサイクル制度が整備されつつあります。一方で、製品リサイクルの土台となる、金属やプラスチックといった資源レベルでの取り組みにも少し目を向けてみたいと思います。
金属資源に関しては、2025年3月にECが鉄鋼・金属行動計画13を策定しました。この行動計画の6つの主要分野の1つとして、金属の循環性向上が挙げられています。現在は、EU域外の金属スクラップの買い取り価格の上昇を要因として、EU域内で発生する金属スクラップのうち20%程度がEU域外へ輸出されていることが背景となっています。金属の循環性向上に対しては、5つのアクションプランが掲げられ、金属スクラップの供給確保のための貿易措置や、リサイクル材市場の拡大・機能向上、2026年末に廃棄物の単一市場創出を目的とした循環型経済法案を提案すること等が計画されています。
プラスチック資源に関しては、2019年に制定した特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令(SUP指令)14と、2025年2月に制定した包装材規則(PPWR規則)15があります。SUP指令では、カトラリー等の使い捨てプラスチック製品とオキソ分解性プラスチック製品のEU市場への流通禁止や、プラスチックボトルの回収率を2029年までに90%とすること、2025年以降ペットボトルに25%、2030年以降全ての飲料ボトルに30%以上の再生プラスチックを使用すること等が定められています。また、PPWR規則は、2026年8月12日以降適用が開始される予定となっており、全ての包装材に対してリサイクル可能であることや、包装材の種類ごとに再生プラスチックの目標使用率を定めています。例えば、ポリエチレンテレフタレートを主要成分とする包装材に対しては、2040年までに50%の再生プラスチックを使用することが求められています。EUではプラスチックのうち40%16が包装材に使用されていることや、現在のEUでのプラスチック包装材のリサイクル率は41%17であることから、より高い水準で包装材のリサイクルを進めることが目指されています。
また、EUではプラスチックのケミカルリサイクルについては、特に指令や規則で特記されていませんが、廃棄物処理プロセスの一部として位置づけられています。廃棄物枠組み指令では、「リサイクル」は、生成物が製品や素材として再利用される場合(モノマーやナフサにする場合等)と定義されており、燃料化する場合は「エネルギー回収」として扱われ、リサイクル率にも含まれません。つまり、リサイクルは手法に係わらず、生成物の利用用途によりリサイクルとして扱うか判断されることになります。ELV規則でも、ケミカルリサイクル材を再生プラスチックとして扱うかの検討がされていることを踏まえると、今後EUでもケミカルリサイクルが進んでいくと考えられます。
4. まとめ
EUにおけるリサイクル政策は、循環経済への移行を推進する戦略の一環として位置づけられています。特に、ELV規則案やEU電池規則は、「指令」から「規則」への格上げによって法的拘束力を高め、製品設計から廃棄・資源回収までのライフサイクル全体を対象とした体制の再構築を進めるものです。
こうした動きは、EU域内にとどまらず、日本の自動車メーカーを含む世界のサプライチェーンに直接的な影響を及ぼします。例えば、再生プラスチックの含有率や循環性の高い車両設計、バッテリーパスポートへの対応等が求められ、自動車、特にEVの輸出戦略のあり方にも影響を与える可能性があります。EUでの新車販売には、規則で定められた各種要件への対応が不可欠となるため、今後の動向を注視し、要件の開始日までの対応が求められるでしょう。
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