連載企画:EU・中国・米国の廃車の回収・リサイクルの実態(全3回) ~【第3弾】米国の政策動向と各国比較から得られる示唆~

2026年8月 7日

 本コラムでは、全3回にわたり、EU・中国・米国の廃車の回収・リサイクルの実態を紹介しています。第3弾では、米国の政策動向について紹介し、最後に本連載企画の取りまとめを行います。

 本調査は一部を除き原則として2026年6月頃までに確認した各国・地域の政府公開資料、研究機関の先行研究、報道機関のニュースリリース等をもとに整理しており、公開時点の最新状況を反映できていない可能性があることにご留意ください。

本コラムのポイント

1. 米国における廃車回収・解体産業の現状

①自動車登録台数・廃車発生規模

 米国では州別の車両登録台数や事故歴等の情報は公的に把握されていますが、全国及び州別の廃車1発生量・処理量を、共通の定義で集計した包括的な公的統計は確認できません。参考情報として、2024年の年間登録台数は約2億9,753万台であり、登録台数が多い州は、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州、フロリダ州、オハイオ州等です。車両は中古車売買、サルベージオークション、州間移動、輸出等を経るため、登録台数と州内の廃車処理量がそのまま対応するとは限りませんが、登録台数が多い州は、将来的な廃車発生ポテンシャルも大きいと考えられます。2

表1 州別の車両登録台数及び国内シェア
表1 州別の車両登録台数及び国内シェア

注:全車両登録台数は、Federal Highway Administration の「All Motor Vehicles」に基づき、乗用車、トラック、バス、二輪車を含む。
出所:エム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成

 

 米国の業界団体等では、年間約1,200万台のELVが発生し、その約95%がリサイクルシステムに入ると紹介されています(残り5%の内訳は公表情報上確認できていません)。また、2011年時点の情報ですが、車両重量ベースでは約86%が再使用、材料リサイクル又はエネルギー回収され、残る約14%は主に自動車破砕残さ(ASR)として埋立処分されると整理されています。台数ベースのシステム流入率と、重量ベースの資源回収率は異なる指標である点に留意が必要です。3,4

 また、年間約100万台規模の中古車を輸出しているとの報告もあり、不要車両の一部は国内の解体ルートに入る前に国外へ移動している可能性があります。国内ELVリサイクル量だけでなく、中古車の輸出を含む車両流通全体の中で廃車への移行を捉える必要があります。ハリケーン、洪水、雹害(ひょうがい)等は、事故車・水没車や保険上の全損車両を一時的に増加させる要因となります。4

②ELV・廃車の判定とタイトル制度

 米国では、各州で定められた車両の所有権を示す所有権証明書(タイトル)があり、事故歴・全損歴・修復歴・解体対象であること等、車両の状態や履歴を示す区分(ブランド)が付されます。主な区分には、クリーンタイトル、サルベージタイトル、リビルトタイトル、ジャンクタイトルがありますが、各州により名称や定義は一部異なります。サルベージタイトル車両は、修理・検査を経て、リビルトタイトルとして再流通する場合があります。一方、ジャンクタイトル車両は公道復帰が認められず、原則として部品取り、解体又は資源回収のみを目的とする車両として扱われます。本調査では、ジャンクタイトル車両及びサルベージタイトル車両のうち、修理・再流通されず、部品取り・解体・資源回収工程へ移行する車両をELVとして扱います。サルベージタイトル車両のすべてがELVに該当するわけではなく、個別の数値や説明は出典上の定義に準拠します。5

表2 車両の所有権証明書(タイトル)に付される車両状態履歴の一般的な区分
表2 車両の所有権証明書(タイトル)に付される車両状態履歴の一般的な区分

注:米国では統一的な廃車の判別基準はなく、各州法での基準に準じて名称や定義が規定されるため、ここでは概ね共通する内容を例示する。
出所:エム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成

 

 実務上は、保険会社等による全損認定がELV発生の重要な入口です。米国自動車管理者協会(American Association of Motor Vehicle Administrators:AAMVA)は、モデル上の例として、保険会社が全損と認定した車両、修理費が事故前価値の75%を超える車両、又は安全上重大な構造損傷を受けた車両をサルベージ車両として示しています。ただし、タイトル付与基準や全損判定方法は州によって異なり、例えばカリフォルニア州のように、保険会社ではなく、所有者、リース会社、金融機関等が修理を経済的に合理的でないと判断する場合もあります。米国の車両保険加入率は、衝突保険で77%、その他車両保険で80%であり、補償区分や集計対象が異なるため単純比較には留意が必要ですが、日本の車両保険加入率(54.9%)と比較して高い水準です。米国では一律のELV判定ではなく、経済的全損判断とタイトル制度が、修理・再流通と解体・資源回収の分岐点になっています。6,7

③回収・解体・リサイクル産業の規模と制度的位置付け

 米国には、EUのELV指令や日本の自動車リサイクル法に相当する、回収から再資源化までを一元的に管理する連邦制度はありません。州レベルでは、タイトル、事業者ライセンス、所有権確認、保管・解体・環境の管理が行われ、連邦レベルでは全米自動車タイトル情報システム(National Motor Vehicle Title Information System:NMVTIS)による車両履歴報告が行われています。自動車リサイクル拠点は9,000以上、従業者は14万人以上、破砕施設は300施設規模であり、米国の自動車リサイクルは、大規模な民間産業として成立しています。なお、米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)は車両リサイクルに関するガイドラインを公表していますが、これは州法や規制に代わるものではなく、法的拘束力を有する規制ではありません。8

2. 地域別に見た産業構造の特徴

①解体・破砕事業者の地域分布

 米国のELVは各地域で発生し、地域の解体業者やサルベージ事業者が回収、保管、部品取り、危険物除去等を担います。部品や液体類を取り外した後の車体ガラは、米国では一般に「ハルク」と呼ばれ、ハルク化される前にどこまで部品を取り外すかは事業者によって異なります。ハルクや金属スクラップは、破砕施設、製鋼所、港湾、鉄道等の立地に応じて州境を越えて流通します。

 国際リサイクル連盟(Bureau of International Recycling:BIR)のWorld Shredder Listでは、2024年5月時点で米国内に352の破砕施設があると整理されています。州別ではテキサス州が30と最も多く、イリノイ州、ミシガン州、ペンシルベニア州が各15、フロリダ州、オハイオ州、テネシー州が各14となっています。9

 テキサス州は、登録車両数が多く、破砕施設数も全米最多です。さらに、ヒューストン周辺には港湾、鉄道、バージ、外航船を利用する金属スクラップ事業者が存在することから、南部・メキシコ湾岸の主要な破砕・金属流通地域の一つと位置付けられます。ミシガン州、イリノイ州、オハイオ州等の中西部・五大湖周辺にも破砕施設が多く、同地域の自動車産業、製造業及び鉄鋼需要と結び付いた金属スクラップの処理・供給地域としての性格が確認できます。

 登録台数が多い州ほど破砕施設数が多いとは限りません。例えば、カリフォルニア州は全米最大の車両登録規模を持つ一方、BIR資料上の破砕施設数は9であり、テキサス州の30を下回ります。破砕施設の立地には、ELV発生量だけでなく、事業許可、土地利用、金属需要、物流条件等が影響すると考えられます。このように、米国では車両の回収・部品取り・前処理は発生地に近い地域拠点が担う一方、破砕・金属回収は、設備立地、金属需要、港湾・鉄道等の物流条件に応じて広域的に行われます。解体施設と破砕施設は必ずしも同じ地域に集積するのではなく、異なる立地条件の下で接続されています。

②地域ごとの制度・市場構造の特徴

 米国では、解体・破砕に関する制度は州ごとのライセンス、環境管理、記録管理等により構成され、管理の重点も異なります。

 ニューヨーク州では、解体施設に対し、受入ELV台数、圧縮・搬出台数、年末保管台数、廃液の量と行き先等を含む年次報告が求められます。また、液抜きを行う場所の確保、漏えい対策、圧縮・破砕前の鉛蓄電池、水銀機器、冷媒、エアバッグ等の除去が規定されています。州制度が、車両の所有権だけでなく、施設内の環境管理と処理実績まで把握する例です。10

 カリフォルニア州では、非修理車両の解体や中古部品・材料の取引を行う事業者に解体業者ライセンスを求めています。申請には、販売許可、雨水管理に関する許可、環境当局の識別番号、ゾーニング確認等が必要であり、事業者資格と施設・環境要件を組み合わせて管理しています。11

 一方で、フロリダ州では、サルベージ車両、廃棄予定車両、スクラップ金属の取引について、所有権証明、事業者登録及び取引記録の管理が重視されており、盗品・盗難車両の流通防止や取引の追跡を目的とした制度になっています。具体的な記録項目は後述の「破砕工程・ハルク物流・州規制」で扱います。このように、同じ米国内でも、環境・施設管理、事業者ライセンス、所有権・取引記録のどこに重点を置くかが州によって異なり、ELV管理と事業運営の条件には地域差があります。12

3. 回収方法の実態

①不要車両の流通・回収ルート

 米国では、不要になった車両が直ちにELVとして解体されるのではなく、走行可否、事故歴、タイトルの状態、市場価値等に応じて、中古車再販、修理・リビルト、輸出、部品取り、解体・資源回収へ振り分けられます。走行可能で市場価値が残る車両は、下取り、個人売買、卸売オークション等を通じて中古車市場へ流通します。事故車、水没車等は、保険会社等による全損認定後、サルベージオークションを通じて修理再生業者、解体業者、部品業者、輸出業者等へ販売されます。サルベージ車両のすべてがELVとなるわけではなく、修理・再流通される車両と、部品取り・解体へ進む車両に分かれます。最終的に車両としての再販価値が低いものが、解体・資源回収ルートへ移行します。

図1 米国における事故車・不要自動車の主な流通・回収ルート

注:本調査では、車種によるフローの違いは示していない。また、上記に示さないルートも取りうる。
出所:エム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成

図1 米国における事故車・不要自動車の主な流通・回収ルート

 

②オークションを介した車両流通

 米国の不要車両・事故車流通では、オークションが重要な役割を担います。卸売オークションは、下取り車、リース・レンタカー返却車等、主として再販可能な中古車をディーラー間で流通させる市場です。一方、サルベージオークションは、全損車、事故車、水没車等を、修理再生、部品取り、輸出、解体の各事業者へ振り分ける市場です。後者は、車両としての再使用を継続するか、部品・素材回収へ移行するかを決める重要な分岐点となっています。

 卸売オークションの大手企業であるManheimは、ディーラーやリース・レンタカー事業者等から供給される再販可能な中古車を、対面・オンラインで流通させる代表的な卸売市場です。サルベージオークションの大手企業であるCopartは、世界11か国に275超の拠点を展開し、年間400万台超の車両を販売しています。これらは米国限定ではなく世界全体の数値ですが、広域ヤードとオンライン取引を組み合わせたサルベージ車両流通の規模を示しています。保険事故車オークション事業者(IAA)も全米各地のヤードとオンラインオークションを通じて、事故車、全損車、修理可能車等を流通させています。13

③情報管理と輸送・搬出

 情報管理面では、NMVTISが、車両識別番号(Vehicle Identification Number:VIN)を用いて車両履歴を管理しています。原則として、年間5台以上のジャンク、サルベージ又は全損車両を扱う保険会社、自動車リサイクル業者、ジャンク・サルベージヤード、スクラップ車両の破砕・金属処理事業者、サルベージプール、オークション等が報告対象となり、少なくとも月1回の報告が求められます。報告項目には、VIN、取得日、入手元、車両を圧縮・処分したか、販売等に供したか、国外輸出を予定しているか等が含まれます。14

 NMVTISは、車両のタイトル履歴とジャンク・サルベージ事業者等への移動をVIN単位で把握する、全国的な車両履歴管理の仕組みです。一方、車両から取り外した個々の部品、破砕後の鉄・アルミ・銅、ASR等の処理先までを追跡する工程・素材管理システムではありません。

 走行可能な車両は所有者が持ち込む場合がある一方、事故車、故障車、水没車等の走行不能車はレッカー車又は複数台積載車で回収されます。オークション事業者や解体事業者が牽引・輸送を手配し、複数台をまとめて搬送する場合もあります。解体後のハルクの圧縮・広域輸送については、後述します。

 米国では、不要車両の行き先は、タイトル、全損認定、市場価値及びオークション取引を通じて、中古車再販、修理・リビルト、輸出、部品取り、解体へ振り分けられます。NMVTISは、その過程をVIN単位の車両履歴として記録しますが、部品・素材の処理工程までを管理する仕組みではありません。米国の回収体制は、物理的な車両移動と市場取引、車両履歴情報を組み合わせた分散型の仕組みと整理できます。

4. 解体・破砕工程の実態

①解体業者の類型:フルサービス型とセルフサービス型

 米国の自動車解体業者は、部品の取り外し方によって、フルサービス型とセルフサービス型に大別できます。フルサービス型では、事業者が再使用可能な部品を取り外し、品質、互換性、在庫等の情報とともに修理工場や消費者へ販売します。セルフサービス型では、事業者が液体類・危険物等を事前に除去した車両をヤードに並べ、顧客が必要な部品を自ら取り外します。フルサービス型は部品品質と在庫管理に強みを持つ一方、セルフサービス型は部品取り外しの作業を購入者が担うことで、低価格販売と多数の価値の低い車両からの部品回収を両立させています。15代表例として、セルフサービス型の企業にはLKQ Pick Your Part、Pick-n-Pull、Pull-A-Part等、フルサービス型の企業にはLKQ Corporation、Fenix Parts等があります。

図2 米国におけるELV処理フロー

出所:Automotive Recycling Now掲載記事15やPick-n-Pullウェブサイト16を基にエム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成

図2 米国におけるELV処理フロー

 

 例えば、セルフサービス型のPick-n-Pullでは、買い取った車両から液体類・危険物を事前に除去した後、車両をヤードに配置します。顧客はオンラインサイトで部品取りの対象車両を確認し、ヤードで必要な部品を自ら取り外します。部品取り後に残ったハルクは圧縮され、金属リサイクル事業者へ送られます。このモデルは、事業者の部品取り作業を抑えながら、部品販売とハルクの鉄スクラップ販売を組み合わせて回収する仕組みです。

②解体工程:受け入れ、危険物除去、部品取り、ハルク化

 米国におけるELVの基本的な解体工程は、EPAがガイドを示しており、日本とおおむね同じです。ただし、実際の取り外し範囲は、州規制や施設の設備に加え、部品需要、取り外しコスト、車両の状態、金属価格等によっても異なります。このため、同じハルクでも、解体段階で取り外された部品・素材の範囲には差があります。米国の解体工程は、環境・安全上必要な除去を行った上で、まず再使用部品と有価部品の価値を回収し、最後にハルクから鉄スクラップを回収する段階的な構造です。なお、電動車では、高電圧系統の安全確保と駆動用電池の取り外しが必要になりますが、具体的な作業方法や後段処理は、車種、事業者、州規制等により異なります。17

③破砕工程・ハルク物流・州規制

 米国では、地域の解体ヤードが部品回収とハルク化までを担い、大手金属リサイクル事業者がハルクの回収、圧縮、破砕、金属販売を担う分業がみられます。一方、一部の大手金属リサイクル事業者では、複数工程を自社ネットワーク内で統合する例もあります。

 米国では、解体ヤードが広域に分散しているため、ハルクを効率的に集約する物流が重要です。ハルクは輸送効率を高めるため、解体ヤード又は現地に運び込む移動式の圧縮設備で圧縮され、フラットベッドトラック等で破砕施設へ運ばれます。大手金属リサイクル事業者は、車体回収、現地圧縮、コンテナ・ロールオフボックス、トラック輸送等を組み合わせて、小規模な解体ヤードからハルクを集約しています。SA Recyclingは、圧縮済み・未圧縮の車体をフラットベッドで回収するほか、大規模な回収案件向けに現地に圧縮チームを派遣し、処理から搬出までを一括して行っています。18

 Sims Metalのバージニア州チェサピーク拠点は、トラック、バージ、船舶、コンテナ等による出荷機能を有しており、鉄・非鉄金属を国内外の需要先へ供給しています。2025年、内陸部の製鉄所・製錬所への輸送機能を強化するため、約410フィート(約125m)超の引き込み線路を新設する計画が州から承認されました。年間約2,000台分のトラックによる輸送を鉄道輸送へと転換でき、内陸部の製鉄所・製錬所への長距離輸送ルートの確保が見込まれています。分散したスクラップを大規模拠点へ集約するだけでなく、回収後の金属を需要地へ効率的に供給する物流投資の例です。19

 州ごとに、車両・ハルク・スクラップの受け入れに関する記録義務も異なります。記録する情報の多い事例として、フロリダ州では、サルベージ車両やスクラップ車両等を受け入れる際、売主情報、VIN、タイトル又は破壊証明等の所有権関係書類を確認・記録します。これは盗難車両や不適正な車両処分を防ぎ、車両からスクラップへの移行過程を確認するための管理です。12

5. ELV由来再生資源の実態

①金属資源:鉄・アルミ・銅

 米国のELV由来資源の中で、最も量的・経済的に重要なのは鉄スクラップです。2024年の米国粗鋼生産量(鉄鉱石由来の銑鉄や鉄スクラップを原料として製造された鋼の量)は約8,100万トンでした。また、鉄鋼スクラップの見かけ消費量は約6,300万トンでした。鉄鋼生産の約7割を電炉が占めるため、ELVから回収した鉄スクラップには大きな国内需要があります。北米では、自動車から年間1,500万トンを超える鉄鋼が回収されるとの業界報告もあり、ELVは鉄スクラップの主要な供給源です。20

 一方、車体を一括破砕すると、配線由来の銅や合金元素が鉄スクラップへ混入するため、自動車用鋼板から再び同等品質の自動車用鋼板へ戻るとは限らず、建設用鋼材等へ利用される場合があります。米国では、ELV由来の鉄・アルミを自動車用鋼板・アルミ板材へ戻すため、米国エネルギー省の支援を受けて設立された、再生材利用や資源循環技術の研究開発を推進する産学官連携組織(Resource Recovery, Manufacturing and Energy Efficiency Institute:REMADE Institute)のClean Sheet Project等で、車両設計、合金・鋼種管理、破砕・選別技術、製造工程を横断した研究が進められています。現時点では研究段階であり、ELV由来材を自動車用鋼板・アルミ板材へ戻すことが市場全体の標準となっているわけではありません。21

 自動車用アルミニウムは、2016年に公表された研究では91%が回収・再利用されるとされています。もっとも、回収されたアルミが元と同等の自動車用アルミ板材へ戻るとは限りません。車体破砕後は鋳造合金と展伸合金が混在しやすく、混合スクラップの一部は主として鋳造材向けに利用されます。リサイクル業界団体のRecycled Materials Association(ReMA)では、業界で広く使われているスクラップの規格を管理しています。破砕後の非鉄金属混合物は「Zorba」という規格名で流通し、そこからさらに選別されたアルミ主体のスクラップは「Twitch」と呼ばれます。しかし、Twitchにも鋳造合金と展伸合金が混在しやすく、自動車用アルミ板等への利用には成分上の制約があることから、2025年8月にはZorba又はTwitchから分離した展伸アルミ材を対象とする「Vesper」という規格が追加されました。Vesperは、板材や押出材等の展伸アルミを区分して取引するための規格です。アルミニウムの回収量拡大だけでなく、高付加価値用途への循環を進めようとする市場ニーズの高まりを示しています。22,23

 銅は、配線、モーター、電子部品等に使用され、経済価値が高いことから、解体・選別段階で回収対象となります。細い配線等が車体に残ったまま破砕されると、銅は非鉄金属として回収されるだけでなく、一部が鉄スクラップに混入し、鋼材の品質を低下させる場合があります。このため、銅回収量の向上と鉄スクラップへの銅混入防止は、資源回収の効率化と品質確保の両面から取り組むべき重要な課題です。

②非金属資源・ASR

 プラスチック・樹脂は、自動車軽量化の進展に伴い使用量が増えている一方、ELV由来資源の中では再資源化が難しい品目です。参考として、EPAの一般廃棄物統計では、2018年のプラスチックのリサイクル率は8.7%、エネルギー回収を伴う焼却は15.8%、埋立は75.6%でした。なお、この統計は一般廃棄物全体を対象としており、ELV由来プラスチックの実態を直接示すものではありません。ELV由来プラスチックの多くは、破砕前に部品単位で取り外されず、ゴム、繊維、ガラス等とともにASRへ混入します。混合・汚染された状態から樹脂別に分離し、安定した品質の再生材を生産することが難しいため、現状では埋立が主要な行き先です。24

 埋立処分は事業者のコストにもなります。2023年の廃棄物埋立料金の全米単純平均は1トン当たり56.80ドルであり、この単価を車両1台に含まれるプラスチック約193kgへ機械的に当てはめると約11ドル/台(160円/ドルで換算すると約1,760円/台)に相当します。ただし、これはASRの実際の処分料金ではなく、埋立コストの規模感を示す概算です。25

 部品単位で樹脂を回収できれば、再資源化の可能性は高まります。プラスチックリサイクル企業のUltra-Polyは、自動車修理工場から交換済みの熱可塑性ポリオレフィン(TPO)製バンパーを回収し、異物除去、破砕、押出し、ペレット化を経て再生材を製造する取組を2023年に事業化しました。回収材は、新しいバンパー表面材への利用には外観品質上の課題があるため、車両の振動・騒音対策用シャシー部品等の非外観部品に使用されています。これは「バンパー to バンパー」への循環ではありませんが、自動車由来プラスチックを再び自動車用途へ戻す事例です。Ultra-Polyの事例が示すように、樹脂種類を特定できる部品を破砕前に回収できれば、自動車用途を含む再生材利用が可能ですが、車体とともに破砕され、ASRに混入したプラスチックは、異種樹脂、ゴム、繊維、ガラス等との分離が必要となり、品質とコストの両面で再資源化が難しくなります。26

③危険物・有価部品・その他一般資源

 解体段階で除去される液体類・危険物のうち、鉛蓄電池、廃油、不凍液等は、適切に分別すればリサイクル又は再利用できます。一方、水銀含有部品等は専門的な処理が必要です。触媒コンバーター、鉛蓄電池、アルミホイール、エンジン、トランスミッション等は経済価値が高く、部品リユース又は素材回収の対象となります。タイヤ、ガラス、ゴム、繊維等も、破砕前に個別回収できる場合は再利用又はリサイクルの可能性がありますが、ASRに混入すると再資源化が難しくなります。米国では、法定の統一的な事前解体品目だけでなく、部品需要、貴金属・非鉄金属価格、再販可能性等が、解体段階で何を取り外すかに影響します。そのため、危険物の適正処理と、有価物の経済的回収が同じ工程の中で進められています。

 米国では、鉄を中心とする量的なスクラップ回収は大規模な市場として成立しています。一方、自動車用鋼板、展伸アルミ、プラスチック等を元と同等の自動車用途へ戻す取組は、研究開発、新たなスクラップ規格、個別企業の事業化事例として確認される段階です。高品位循環を米国全体の主要政策課題として強く推進する動きは限定的ですが、素材需要や再生材価値を背景とした民間主導の取組が始まっています。

6. まとめ・示唆

 米国では、EUや日本のような全国統一のELV制度は存在せず、タイトル制度、保険会社による全損認定、オークション取引を通じて、不要車両が中古車再販、修理・再流通、輸出、部品取り、解体・資源回収へ振り分けられています。行政が一律にELVを管理するのではなく、市場取引を通じて車両の行き先が決まる点が特徴です。

 また、車両の回収・解体は地域の事業者が担う一方、破砕・金属回収は大規模事業者や破砕施設へ集約されており、分散した回収網と広域的な資源流通が組み合わされています。オークション、NMVTIS、物流事業者等が、それぞれの役割で車両流通や情報管理を支えています。

 資源循環では、鉄スクラップを中心とした大規模な回収・利用市場が成立しており、ELVは重要なスクラップ供給源となっています。一方、自動車用鋼板、展伸アルミニウム、プラスチック等を元と同等の用途へ戻す高品位循環は一部で取り組みが進む一方、課題は残されています。米国では、まず経済合理性に基づく回収・再利用が優先されており、高品位循環は一部の研究開発や企業事例として確認される段階にあります。

最後に:EU・中国・米国の比較から得られる示唆

 本調査で確認した廃車回収・解体・資源利用の実態を、調査観点ごとに整理すると以下のとおりです。3つの国・地域では、いずれも廃車は解体施設へ直接流れるわけではなく、中古車流通、保険・オークション、正規・非正規ルート、地域ごとの事業者構造等によって回収実態が大きく異なっていました。

表 EU・中国・米国の廃車回収・解体・資源利用の実態及び課題のまとめ
表 EU・中国・米国の廃車回収・解体・資源利用の実態及び課題のまとめ

注:EUは加盟国間、米国は州間で制度及び産業構造の差が大きい。また、中国の省・企業の取組には、特定地域又は先進企業の事例が含まれる。本表は各国・地域のすべての実態を一律に示すものではなく、本調査で確認した主な傾向及び事例を整理したものである。
出所:各コラムの整理結果を基に、エム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成

 

 EU、中国、米国のいずれにおいても、廃車回収の実態は、解体施設に入った後の工程だけでは捉えきれませんでした。EUでは中古車の域内移動・域外輸出、中国では正規・非正規ルートの競合、米国ではタイトル制度や保険・オークションを通じた車両流通が、廃車の発生や回収経路を左右しています。したがって、廃車由来資源の発生量や回収可能性を把握するには、解体施設に入った後の工程だけでなく、ELVになる前の車両流通を含めて捉える必要があります。

 情報管理の仕組みは、各国・地域で大きく異なります。EUでは廃車証明書や認定処理施設での処理記録に加え、サーキュラリティ車両パスポート等により車両・部品・素材情報を接続する方向が示されています。米国では車両履歴管理システムを通じた車両識別番号・タイトル情報管理、中国では登録抹消、回収証明、EV電池・中古部品の管理が進められています。今後の資源循環高度化には、廃車処理工程だけでなく、車両履歴、部品情報、素材情報を連携する視点が重要となります。

 資源回収の面では、3か国・地域に共通して、廃車由来資源の中心は鉄スクラップであり、金属資源は一定程度回収されています。一方で、鉄・アルミの水平リサイクル、銅の分離、プラスチックを含む非金属資源・混合残さ等の再資源化には共通して課題が残ります。また、EV普及に伴い、駆動用電池等の高付加価値部品をどのように回収・管理するかも重要な論点となっています。今後は、単に廃車を回収・処理するだけでなく、どの素材を、どの品質で、どの用途へ戻すのかという観点が重要になります。

 以上を踏まえると、日本においても、ELVとして引き取られた後の工程管理に加え、中古車流通、輸出、部品リユースまで含めて、車両の廃車までの商流を捉える視点が重要となります。さらには、廃車由来資源を自動車用途へ戻すためには、解体・破砕・選別等のリサイクル工程の高度化だけでなく、自動車の設計段階からの配慮や再生材の需要創出、再生材品質の確保、サプライチェーン全体での情報連携を一体的に進める必要があるでしょう。


本コラムに関する問い合わせ先

エム・アール・アイリサーチアソシエイツ株式会社

公共政策第二部 資源循環政策チーム/脱炭素政策チーム

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