連載企画:EU・中国・米国の廃車の回収・リサイクルの実態(全3回)~【第1弾】本企画の趣旨とEUの廃車の回収・リサイクルの実態~
- エム・アール・アイリサーチアソシエイツ株式会社
- 公共政策第二部 久間詩奈子、鶴田大地、小林和樹
はじめに:本企画の趣旨
前回の連載企画では、日本と諸外国における自動車リサイクルや資源循環政策の動向について、制度や政策の概要を中心に整理しました。今回は、EU、中国、米国を対象に、廃車の回収実態に焦点を当て、3回にわたり各国・地域を紹介します。
対象とした3つの国・地域はいずれも自動車市場の規模が大きい一方で、国土条件、産業構造、政策体系、事業者構造が大きく異なります。そのため、廃車の回収方法や解体・破砕施設までの輸送、情報管理、再資源化の実態にも、それぞれ固有の特徴があるとの仮説を設定して公開情報を収集し、日本の自動車リサイクルや資源循環のあり方を検討する上で参考となる示唆を整理しました。
なお、本調査は一部を除き原則として2026年6月頃までに確認した各国・地域の政府公開資料、研究機関の先行研究、報道機関のニュースリリース等をもとに整理しており、公開時点の最新状況を反映できていない可能性があることにご留意ください。
本コラムのポイント
- 統合された単一市場を有し、域内外との車両流通も活発なEUでは、販売された新車が最初の登録国でそのまま廃車になるとは限らず、域内移転や域外輸出を経て別の国・地域で使用済自動車(ELV)として廃車処理される場合があります。このため、廃車の実態把握には中古車流通を含めた車両ライフサイクル全体を見ることが重要です。
- EUの廃車回収・処理構造には、中古車輸出型(ドイツ)、拡大生産者責任(EPR)・ネットワーク型(フランス・オランダ)、地域分散型(イタリア)、非正規処理併存型(ポーランド)などの特徴がみられ、国ごとに異なる産業構造が形成されています。
- EUでは重量ベースのリサイクル率は高い一方、鉄・アルミ・銅・プラスチック等は破砕工程で混合しやすく、自動車用途への水平リサイクルは限定的です。高品位な素材循環には、解体段階での選択的な部品・素材回収が重要となっています。
1. EUにおける廃車回収・解体産業の現状
①EUの車両の製造・登録・処理の状況
欧州連合(European Union:EU)における2025年の乗用車製造台数は約1,147万台、新車登録台数は約1,082万台であり、域内に大規模な自動車製造・販売市場が形成されています(表1)。製造台数ではドイツが約403万台とEU全体の35.2%を占め、スペイン、チェコ、スロバキア、フランスが続きます。2025年の新車登録台数は、ドイツが約286万台、フランスが約163万台、イタリアが約152万台、スペインが約115万台、ポーランドが約60万台です。ドイツのように製造台数が登録台数を大きく上回る国がある一方、フランスやイタリアのように登録市場としての性格が強い国もあります。1
2023年時点のEU全体の使用済自動車(End-of-Life Vehicle:ELV)2発生台数は約427万台、ELV重量は約505万トンです。ELVの再使用・リサイクル率は、重量比88.3%であり、現行のEUにおける法的目標である85%を上回りました。一方、エネルギー回収等を含む再使用・リカバリー率は93.7%で、目標の95%には達していません。ELV発生台数を国別にみると、フランスが約103万台と最も多く、次いでイタリア約74万台、スペイン約60万台、ポーランド約38万台、ドイツ約25万台となっています。新車登録台数や保有台数が大きい国ほどELV発生台数も多いとは限りません。EUでは、西欧諸国から東欧諸国や域外市場へ中古車が移転することも多く、製造台数・新車登録台数・保有台数・ELV発生台数の関係を一国単位で単純に対応づけることは困難です。3
表1 EU主要国における乗用車市場規模とELV発生状況
*本表は新車登録台数順に記載している。
**製造台数及び新車登録台数は乗用車を対象とする。ELV発生台数は乗用車及び小型貨物車を対象とし、中・大型貨物車等は含まない。
***ポーランドは、EUの主要製造国上位10位以内に含まれておらず、欧州自動車工業会(ACEA)資料に台数の記載が無いため未掲載。
出所:欧州自動車工業会(ACEA)の2025年乗用車製造・新車登録統計、Eurostatの2023年ELV統計を基にエム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成
②EUの廃車回収に係る制度
EU法令に基づき、EU加盟国では、ELVは認可解体施設(Authorised Treatment Facility:ATF)で処理されることが制度上の基本となっています。所有者が車両を廃棄する場合、ATFで解体証明書(Certificate of Destruction:CoD)が発行されます。車両登録の抹消にはこのCoDが必要です。現行法令の強化版として2026年8月13日に発効が予定されるELV規則では、車両の部品・素材、再生材含有率、取り外し情報等を車両ごとに管理するDigital Circularity Vehicle Passportの導入が予定されています。設計から修理、解体、素材回収までの情報を接続し、部品リユースと高品位な素材回収を促進することが目的です。 4
③中古車流通・輸出を踏まえた廃車発生構造
EUでは、西欧諸国を中心に、新車販売後の車両が中古車として複数回流通し、東欧諸国や域外市場へ移転する構造が存在します(図1)。西欧では、リース返却車、社用車、下取車等が比較的若い中古車として市場に供給されます。これらは中古車プラットフォーム、ディーラー、オークション等を通じて欧州各地へ流通します。東欧では、西欧から流入する中古車が国内市場を形成しており、ポーランドはその代表例です。残存寿命が短い中古車の大量流入は、受入国で多くのELVが発生し続ける要因となるだけでなく、損傷車・事故車流入や非正規処理のリスクにもつながり得ます。車両はEU域外にも中古車として輸出されており、EU非加盟の東欧・コーカサス・中央アジア諸国といった旧ソ連圏やアフリカが主な仕向地です。2022年のEU域外向け中古車輸出では、旧ソ連圏向けが約80万台、アフリカ向けが約35万台とされており、EU域内で使用された車両が域外で引き続き使用され、最終的にELV化する大規模な流れが存在します。2019年にアムステルダム港で行われた輸出中古車の調査では、車検切れ、高車齢・高走行距離の車両に加え、安全装置の欠落や不具合がある車両、解体目的で登録抹消された後に輸出された車両も確認されています。5このように、本来はELVとして処理されるべき車両が正規のルートから外れて、中古車に紛れて流出していることが、EU域内で最終的な行き先を把握できない「行方不明車両」発生の一因となっています。ここでいう行方不明車両は、物理的に所在が全く分からない車両だけを意味するものではありません。登録抹消後にATFでの処理記録や適正な輸出記録に結び付かず、公式統計上、最終的な処理先を確認できない車両を含む概念です。6
このように、EUのELV回収を理解するには、ATFに搬入された後の処理工程だけでなく、その前段階にあるリース返却、中古車売買、EU域内での移転、域外輸出までを一連の車両流通として捉える必要があります。各国のELV発生台数や処理産業の規模は、国内の自動車保有台数だけでなく、この前段階の車両流通に大きく影響を受けています。
注:ここで示したフロー・国等の流れは一例であり、西欧からEU域外といったルートなども取りうる。行方不明車両は、EU域内外での移動状況が把握できない。
出所:International Transport Forum (2023)及びEurostatの情報を基にエム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成
図1 EUにおいて想定される自動車移転フロー
2. 主要国別に見た産業構造の特徴
①ドイツ:中古車流通・輸出中心
ドイツは、Volkswagen、BMW、Mercedes-Benz等の自動車メーカー(OEM)を有する欧州最大級の自動車生産・保有国ですが、車両ストックの大きさに対し、国内ELV処理量が顕著に小さい状況です。ドイツの乗用車と小型貨物車の保有台数は2024年初時点で約5,230万台です。一方、2023年に国内で処理されたELVは約25万台にとどまるのに対し、中古車輸出は約230万台でした。これらの数字からは、ドイツで保有されていた車両の多くが国内でELV化されず、中古車として国外に移転していることが見て取れます。背景には、リース満了車、社用車、レンタカー、ディーラー下取車等を起点とする、再流通市場の発達があります。ドイツでは2023年に、法人車両の新車登録が約98万台と過去最高を記録し、個人車両の登録数を上回りました。7法人車両は、個人車両と比較して短いスパンで更新されます。ドイツ自動車市場における法人車両の存在感は、より低車齢の車両が中古車市場に数多く放出される素地となっています。
②フランス:OEM主導のELV回収・処理ネットワークが発達
フランスでは、既存の資源循環ネットワークをOEMが吸収する形で、拡大生産者責任(EPR)制度に基づく回収・処理体制が構築されています。フランスでは1980年代には、使用済自動車回収・リサイクル施設等が主導する回収・解体・部品リユースネットワークが形成されていました。2000年代以降、ルノーグループの資源循環事業会社が、自動車回収・リサイクル大手のINDRA社を買収するなど、8EUがOEMに求めるEPRの一環として、既存の資源循環ネットワークをOEMのもとに統合する動きが進みました。国土が広く地方部にも人口が分布するため、全国的な回収カバレッジの確保が重要であり、認可VHUセンター(EUのATFに相当する認可解体施設、以降ATF)の分散配置とネットワーク統合が組み合わされています。約1,700のATFと約60の破砕施設があり、年間約120万台のELVを処理しています。そのうち、INDRAでは、ネットワーク傘下のATFにおいてELVを4割近く処理しており、集約度の高さがうかがえます。9,10
③イタリア:事業構造は分散的で集約度は低い
イタリアは、2023年時点で、車両解体施設は全国に1,418施設あり、北部603施設、中部226施設、南部589施設と各地に広く分布しています。一方、車両破砕施設は全国26施設で、北部15施設、中部5施設、南部6施設にとどまります。分散したATFで車両を受け入れ、解体後の車体ガラを各地域の少数の破砕施設へ集約する構造が確認できます。解体も破砕も独立系事業者が主体であり、ELV回収・処理事業のネットワーク化や集約度は低い状況です。11
④オランダ:ARN中心の関係者連携による回収・処理高度化
オランダでは、オランダ自動車リサイクル協会(Auto Recycling Nederland:ARN)が中心となり、OEM・輸入車のEPRを実施する中核組織として、OEM・輸入業者、解体施設、破砕施設、破砕後処理(Post-Shredder Treatment:PST)工場、専門リサイクル施設と連携し回収・処理を行っています。ARNは2023年時点で238の提携事業者と連携し、そのうち13社が破砕会社です。各地の解体・破砕拠点から発生するPST残さを、オランダ中部のTielに立地する1カ所のPST工場に集約することで、2023年にはELVの98.7%を有効利用しており、そのうち再使用・材料リサイクルが88.1%、エネルギー回収等が10.6%でした。12
⑤ポーランド:中古車受入・高車齢車利用・非正規処理ルートの併存
ポーランドでは、輸入した中古車の半数以上が10年以上の高車齢車両と報告されています。他国で保有されていた車が最終的にポーランドで廃棄されるケースが多くなることから、ELV発生のポテンシャルが高い国です。正規のATF総数は約1,000カ所で、国土が比較的広く人口密度も低いため、地域分散型・中小事業者主体の産業構造が示唆されます。正規ATFと非正規処理ルートが併存しており、正規処理への流入向上が産業構造上の課題です。13
3. 回収方法の実態
①ドイツ:中古車流通が先行し、廃車時は認可施設で回収
上述のとおり、ドイツでは多くの車両が中古車市場に流入するとはいえ、国内でELVとして処理される車両も、一定数存在します(2023年で約25万台)。所有者が車両を廃棄する場合は、認可された受入施設、回収施設、または解体施設に引き渡し、解体・リサイクル証明を受け取ることになっています。OEMによる自社製品回収は、メーカー指定の認可施設で受け入れる流れです。14
②フランス:EPR組織を通じた正規ATFへの誘導
所有者が車両を廃棄する場合、ATFへ引き渡し正規ルートで登録抹消・解体へ進みます。フランスでは市場原理に委ねるというよりも、OEMや輸入業者のEPRの一環として、OEM系ネットワークを通じてELVを回収し正規ルートで処理を行っていく点が特徴です。フランスでは2024年に、Recycler Mon Véhicule(RMV)が、自動車業界のEPR義務履行組織(エコオーガニズム)として政府の認可を受けました。RMVはOEMや輸入業者の拠出金で運営され、約1,100のATFと契約しパートナー網を形成しています。これは国内のATF約1,700施設の約3分の2に相当します。RMVが業界共同で確実にELVを正規のセンターに繋ぎ、メーカー・輸入業者のEPR義務を共同で履行する制度的な受け皿となっています。ルノー系列のINDRAネットワークのATFも、RMVのパートナー網に含まれます。なおINDRAは、解体だけでなくGoodbye CarやPRECISといったサービスを通じて、車両回収、解体、中古部品流通等のバリューチェーンを事業として一体的に運営しています。15
③イタリア:地域分散型ATFを入口とする回収
ELV回収の入口は全国に分散したATFであり、上述のとおり、事業構造、バリューチェーンも小規模事業者に分散しています。ATFで前処理、部品取り、汚染除去等を行った後、車体ガラはより少数の破砕施設へ送られます。2026年に設立されたELV Italiaは、メーカー・輸入業者のEPR対応に加えて、既存の地域分散型ATFに対するトレーサビリティや資源回収の支援を掲げています。ただし、既存の地域分散型ATFをどの範囲までネットワーク化するかは、今後の展開を見る必要があります。回収段階では1,418の解体施設が地域ごとの入口となる一方、解体後の車体ガラは全国26の破砕施設へ送られます。解体施設と破砕施設の比は55:1であり、回収・解体段階の分散性と破砕段階の集約性が際立っています。16
④オランダ:ARNによる回収・輸送・後段処理の一体管理
オランダでは回収からPSTまで、ARNのネットワークによる集中的な物流管理が行われています。所有者はARNネットワークに参加するATFへ車両を持ち込み、再使用可能部品、バッテリー、油類等が取り外されます。解体後の車体ガラは破砕施設へ送られ、破砕後残さは国内1カ所のPST工場でプラスチック、鉱物、繊維、金属残さ等に追加選別されます。ARNは解体施設、破砕施設、PST工場、専門リサイクル施設間の物流も管理し、輸送はコンテナ単位でトラック又は内陸水運船(バージ)により行われます。解体後物流の管理には、ARNが運用するDigital Transportation Document(電子輸送証票)が用いられており、2023年には147の解体施設と国内の全破砕施設・PST工場が参加し、7,741件の輸送がデジタル処理されました。ARNは施設をつなぐだけでなく、車体ガラや残さがどの拠点間を移動したかを輸送単位で管理しています。また、オランダでは2024年の内陸貨物輸送に占める内陸水運の比率が約47%で、EU全体の約5%を大きく上回ります。これはELV関連輸送に限定した比率ではありませんが、ARNがトラックによる陸送に加えて、バージによる船舶輸送を利用できる物流基盤が国内に整っていることを示しています。17
⑤ポーランド:中古車受入・高車齢車利用・非正規処理ルートの併存
正規ルートでは、所有者がATF又は回収ネットワークへ車両を引き渡し、登録抹消、除染、部品取り外し、素材回収へ進みます。一方で、正規ATFに入らない車両も多く、非正規解体、部品取り、金属回収、不適正処理へ流入する非正規処理ルートが併存しているのが実情です。ポーランド自動車リサイクルフォーラム協会(FORS)は、毎年50万台を超える車両が公式流通から消え、非正規解体へ流入していると指摘しています。これらは公的統計ではなく業界側の推計ですが、正規ATFの処理実績だけでは国内のELV発生・処理実態を捉えにくいことを示しています。行政当局による監視・摘発は行われていますが、正規ルートだけでは全ての車両を捕捉できていない点が課題です。18
4. 解体・破砕工程の実態
①法制度に基づく標準処理プロセス
EUでは、ELVはATFで受け入れられ、CoDの発行と登録抹消、液体類・バッテリー・触媒等の除去、再使用部品の取り外し、素材仕分けを経て、廃車ガラが破砕施設へ送られます。破砕工程では主に鉄・非鉄金属が回収され、残る自動車破砕残さ(Automotive Shredder Residue:ASR)はPSTでプラスチック、鉱物、繊維、金属残さ等に追加選別されます。回収できない残さはエネルギー回収又は埋立等に回ります。ATFでは、車両情報の確認、CoDの発行、除染・解体等の処理記録の保持が求められます。一方、ATFから出荷された中古部品、車体ガラ、破砕後残さ、回収素材までを車両単位で一貫して追跡する仕組みは限定的です。事業者や業界団体が独自の管理システムを導入している例はありますが、処理チェーン全体の情報接続はELV規則における強化対象となります。ELV規則では、デジタルトラッキング、再生プラスチック利用、鉄・アルミ等の再生材利用の検討、永久磁石等の取り外し・ラベリングが見込まれ、ATF段階で何を事前に取り外すかがより重要になります。19
②ATF・破砕・PSTの処理実態
EU全体には約12,000の解体施設がある一方、比較的大型の設備として、1,000馬力以上のシュレッダーを有する破砕施設は約300施設とされています。PST工場はさらに少数であり、解体から破砕、PSTへと工程が進むにつれて、処理拠点は集約されます。前章で見たように、イタリアでは1,418の解体施設に対し破砕施設は26施設、フランスでは約1,700のATFに対し破砕施設は約60施設であり、入口の解体施設より後段の破砕施設が大幅に少ない構造が確認できます。EU全体の貨物輸送では、2024年時点で道路が78%、鉄道が17%、内陸水路が5%を占めます。これはELV関連輸送に限定した比率ではありませんが、解体後の車体ガラや金属スクラップも、距離、荷量、施設立地に応じてトラック、鉄道、船舶・バージを組み合わせて輸送されています。大手金属リサイクル事業者では、自社又は協力会社の車両・船舶、回収容器、ヤード、定期輸送網を活用し、複数の回収・解体拠点から大規模な破砕・選別拠点へ集約しています。ドイツのDB Cargoは、鉄スクラップを鉄道でベルギーやイタリアの製鉄所へ輸送しており、回収された金属を需要地へ定期的に供給する広域物流の一例です。PSTは、ASRから金属、プラスチック、鉱物、繊維等を追加選別し、埋立量を削減する工程です。破砕後に混合状態から回収するため、回収物のすべてが元と同等の自動車部材へ戻るわけではありません。重量ベースの有効利用率を高める機能と、素材を高品位に循環させる機能は区別して見る必要があります。20
③主要企業・先進事例に見る工程高度化
INDRAは、約330のATFをネットワーク化し、Goodbye Carと呼ばれるELV回収プラットフォームサービスを提供し、所有者、輸送事業者、ATFをつなぐとともに、PRECISと呼ばれるパーツ情報登録・再販プラットフォームで、取り外した中古部品の在庫・販売情報を共有しています。特徴は、解体施設を一極集中させることではなく、分散した施設に共通の工程とデジタル基盤を導入し、回収から部品販売までを標準化・可視化している点です。Derichebourgは、フランス国内に100か所超の自社ATFと18か所の破砕サイトを有し、破砕後の金属を素材別に選別しています。自社の二次アルミ精錬設備を保有して年間7.7万トン、約1,000万個のアルミインゴットを生産しており、回収・解体、破砕、選別、精錬、輸送をグループ内で接続し、スクラップを一定の品質に加工した二次素材として自動車産業等へ供給するモデルを構築しています。21
5. ELV由来再生資源の実態
鉄・鉄鋼は重量ベースで約90%が回収・リサイクルされています(表2)。ただし、車体を一括破砕すると銅配線等が鉄スクラップへ混入し、自動車製造に利用可能な高品位な鋼材用途への再利用を妨げる場合があります。このため、回収量は多くても、自動車用鋼材から再び同等の自動車用鋼材へ戻るとは限りません。22
アルミニウムは約95%が回収されるとされますが、車体を一括破砕すると展伸材と鋳造材、異なる合金系が混入します。高品位な再資源化に回る割合は50~70%程度と整理されており、元の展伸材用途には戻りにくいことが課題です。自動車用途への循環を高めるには、破砕前の部品取り外しと合金系別の選別が重要になります。23
銅は配線、モーター、電子部品等に使用され、回収されれば材質を大きく劣化させず再生できます。一方、細い配線や複雑な電子部品のまま破砕すると鉄スクラップやASRに混入して分散するため、回収率は約70%(推計)にとどまります。電動車ではモーターや電装系に使用される銅の重要性が高まるため、破砕前の取り外しが課題となります。24
ELV中のプラスチックの多くは、部品として事前に取り外されず、車体とともに破砕されます。業界の報告では、ELVプラスチックは、材料リサイクルが19%、エネルギー回収が40%、埋立が41%とされています。ELV規則では、車両製造における再生プラスチック利用とELV由来材の利用比率の向上を段階的に求める方針が示されています。25
自動車ガラスは、事前解体率・材料リサイクル率がともに10%未満にとどまります。ガラス自体は再生可能ですが、破砕前に取り外されない場合、細粒化して他素材と混合し、容器・板ガラス向けの高品質カレットとして利用しにくくなります。このため、破砕後の選別より、破砕前の取り外しが重要です。26
駆動モーター等に使われる永久磁石は、車両全体から見た重量が小さく、部品の内部に組み込まれているため、通常は回収しにくい素材です。回収・再資源化率は1%未満とされ、車両・部品上のラベリング、磁石を含む部品の位置情報、破砕前の取り外しが必要になります。27
表2 ELV由来素材の回収・循環状況
出所:各業界団体公表資料22~27よりエム・アール・アイリサーチアソシエイツ作成
6. まとめ・示唆
統合された単一市場を有し、域内外との車両流通も活発なEUでは、車両が最初に登録された国でそのままELVになるとは限らず、中古車としてEU域内外に再流通した後、別の国・地域で廃車となるケースが多く見受けられます。このため、ELVの回収実態を正確に把握するには、ATFでの処理実績だけでなく、登録抹消、中古車としての流通・輸出、非正規処理など、ELV化に至る前段階から車両の行き先を追跡することが重要です。今後発効が予定されるELV規則では、輸出車両の適正性確認や、車両・部品・素材に関する情報管理を強化することで、行方不明車両の抑制を図る方向性が示されています。
また、EUでは、回収・解体を担うATFが各地域に分散する一方、破砕・PSTなどの工程は、比較的少数の拠点に集約されています。中古車市場の構造や物流網、事業者構成、正規回収ルートの浸透度も国によって異なります。OEMや関係する業界の主導で、既存基盤を活かしたネットワークの形成や工程をまたいだ一体的な管理が進められている国もありますが、自動車産業や資源循環産業の成熟度が高い一部の国に限られます。今後は、その他のEUの国においても、分散するATFと集約された破砕施設・PST工場を物流・情報の両面で効果的に接続するとともに、再使用可能な部品の取り外し、破砕前の選択的な部品・素材の回収、素材別の高度選別を進める必要があります。単に重量ベースの再使用・再資源化率を高めるだけでなく、ELV由来素材を再び自動車用途に戻す高品位な循環を進めることが重要です。
- 1 European Automobile Manufacturers' Association(ACEA), "Economic and Market Report: Global and EU Auto Industry - Full Year 2025," 2026, https://www.acea.auto/files/Economic_and_Market_Report-Full_year_2025.pdf(閲覧日:2026年7月29日)
- 2 本コラムでは、廃車とELVの両方を用いる。廃車は自動車として使用されなくなった車両、ELVは使用を終えて解体・リサイクル・処分の対象となった車両とする。国により、廃車やELVの定義や用い方は異なる点に留意が必要である。
- 3 Eurostat, "End-of-Life Vehicle Statistics," data extracted November 2025, https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=End-of-life_vehicle_statistics(閲覧日:2026年7月29日)
- 4 European Parliament and Council, "Directive 2000/53/EC on End-of-Life Vehicles," https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2000/53/oj(閲覧日:2026年7月29日);European Parliament and Council, Regulation (EU) 2026/1738 of 8 July 2026 on Circularity Requirements for Vehicle Design and on Management of End-of-Life Vehicles, Official Journal of the European Union, 24 July 2026, https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2026/1738/oj/eng(閲覧日:2026年8月4日)
- 5 Human Environment and Transport Inspectorate (ILT), Used vehicles exported to Africa: A study on the quality of used export vehicles, Ministry of Infrastructure and Water Management, October 2020. https://app.1848.nl/static/pdf/dc/ee/dcee5b7857732e0602eb6a170a2304a49166ef04.pdf(閲覧日:2026年7月29日)
- 6 International Transport Forum, "New but Used: The Electric Vehicle Transition and the Global Second-hand Car Trade," 2023, https://itf-oecd.org/new-used-global-trade-second-hand-electric-vehicles(閲覧日:2026年7月29日);European Commission, "End-of-Life Vehicles," https://environment.ec.europa.eu/topics/waste-and-recycling/end-life-vehicles_en(閲覧日:2026年7月29日)
- 7 Umweltbundesamt, "Altfahrzeugverwertung und Fahrzeugverbleib," 2026, https://www.umweltbundesamt.de/daten/umweltzustand-trends/ressourcen-abfall/verwertung-entsorgung-ausgewaehlter-abfallarten/altfahrzeugverwertung-fahrzeugverbleib(閲覧日:2026年7月29日);Dataforce / Vision Mobility, "Fleet Market Breaks Record," 2024, https://vision-mobility.de/en/news/dataforce-report-fleet-market-breaks-record-evs-and-combustion-vehicles-also-on-the-rise-300550.html(閲覧日:2026年7月29日)
- 8 INDRA, "History," https://www.indra.fr/en/qui-sommes-nous/histoire(閲覧日:2026年7月29日)
- 9 Ministère de la Transition écologique, "Véhicules hors d'usage (VHU)," https://www.ecologie.gouv.fr/politiques-publiques/vehicules-hors-dusage-vhu(閲覧日:2026年7月29日)
- 10 INDRA Automobile Recycling, "Leader en France du recyclage véhicule terrestre," https://www.indra.fr/fr/international/leader-en-france-recyclage-automobile
- 11 Italian Institute for Environmental Protection and Research(ISPRA), "Catasto Nazionale Rifiuti - Gestione nazionale dei rifiuti speciali - elenco impianti," 2023, https://www.catasto-rifiuti.isprambiente.it/index.php?pg=gestrsnazioneimp(閲覧日:2026年7月29日)
- 12 Auto Recycling Nederland(ARN), "Car Recycling - Sustainability Report 2023," https://duurzaamheidsverslag2023.arn.nl/en/car-recycling/(閲覧日:2026年7月29日);ARN, "Processing in Shredder Companies and the PST Factory," https://arn.nl/en/processing-in-shredder-companies-and-the-pst-factory/(閲覧日:2026年7月29日)
- 13 Polish Automotive Industry Association(PZPM), "Used Passenger Car Import to Poland 09 2024," 2024, https://www.pzpm.org.pl/en/News/Used-Passenger-Car-Import-to-Poland-09-2024(閲覧日:2026年7月29日);Automotive Recyclers Forum(FORS), "Szara strefa demontażu," 2025, https://fors.pl/szara-strefa-demontazu/(閲覧日:2026年7月29日)
- 14 AltfahrzeugV, "Verordnung über die Überlassung, Rücknahme und umweltverträgliche Entsorgung von Altfahrzeugen (Altfahrzeug-Verordnung - AltfahrzeugV)," https://www.gesetze-im-internet.de/altautov/BJNR166610997.html(閲覧日:2026年7月29日)
- 15 Légifrance, "Arrêté du 8 avril 2024 portant agrément d'un éco-organisme de la filière à responsabilité élargie des producteurs de véhicules," 2024, https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000049405673(閲覧日:2026年7月29日);INDRA Automobile Recycling, "Des services et solutions," https://www.indra.fr/fr/activites-france/services-solutions(閲覧日:2026年7月29日)
- 16 ELV Italia, "Consorzio per la gestione dei veicoli fuori uso in chiave EPR," https://www.elvitalia.it/(閲覧日:2026年7月29日);ISPRA, "Catasto Nazionale Rifiuti," 2023, https://www.catasto-rifiuti.isprambiente.it/index.php?pg=gestrsnazioneimp(閲覧日:2026年7月29日)
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