環境負荷低減と経済活動の両立に向けたLCAツールの活用可能性 ~GREETモデルを例に~

2026年6月24日

コラムのポイント

1. はじめに

 欧州をはじめ各国でサーキュラーエコノミーへの移行に向けた取り組みが進む中、日本でも循環経済への移行に向けた施策が行われている。

 経済産業省は、2020年に「循環経済ビジョン2020」1、2023年に「成長志向型の資源自律経済戦略」2を策定し、資源制約や気候変動問題への対応に加え、資源需要の拡大や地政学リスクの高まりを背景として、循環型ビジネスモデルへの転換や資源循環システムの自律化・強靱化を通じた持続的な成長の実現に取り組む方針を示した。さらに、循環型社会形成推進基本法に基づく政府の基本計画である「第五次循環型社会形成推進基本計画」3(2024年閣議決定)では、循環経済への移行が国家戦略として明確に位置付けられた。

 循環経済及び循環性の高いビジネスモデルへの移行にあたり、特に製造や小売などの動脈産業は、設計・生産・利用・廃棄の一連の流れ(ライフサイクル)の実態を把握し、より環境負荷の低い取り組みを進める必要性が高まっている。例えば、設計段階では再生材などの環境配慮型素材を積極的に利用したり、生産段階では生産ロス(端材等)を削減したりすることが重要になる。

 こうした取り組みを推進する際に有用な手段の一つが「ライフサイクルアセスメント(LCA:Life Cycle Assessment)」である。LCAとは、製品やサービスの資源採取から廃棄・リサイクルまでの環境負荷を定量的に評価する手法である。ライフサイクルにおける資源の投入量や温室効果ガス(GHG)排出量等を定量的に把握することは、環境に配慮した製品の製造や事業活動を実現する上で重要な手がかりになる。

 LCAツールは世界で複数開発されており、LIME3(日本)4、LC-IMPACT(欧州)5、GREETモデル(米国)6等が挙げられる。そして、近年ではLCAツールが国の政策設計や税控除等の根拠として利用されている。2022年にバイデン政権の下で成立したインフレ抑制法では、SAFや水素の生産に係る事業の税額控除を決定する際、GREETモデルによって炭素強度を算定することが定められている7

 世界各国では、環境負荷の低減と経済活動の両立を目指し、環境負荷を可視化するLCAツールの開発が進められ、政策への反映が試みられている。本稿では、米国の政策設計に実際に活用されたGREETモデルを取り上げ、政策にLCAが用いられる重要性やLCAツールを利用し環境負荷や経済評価を行うことの有用性を整理した。

2. GREETモデルの概要

 GREETモデルは、"Greenhouse gases, Regulated Emissions, and Energy use in Technologies model"の略であり、燃料及び車両のライフサイクルの環境影響評価に特化したモデルとして1994年に開発され、定期的にアップデート・拡充されている。

 米国エネルギー省傘下の国立研究機関によって開発され、Windowsアプリ及びMicrosoft Excelファイルが無料公開されている。

3. GREETモデルの仕組み

 GREETモデル8では、自動車のライフサイクル全体を、走行に使用する燃料のライフサイクル(GREET1)と車両のライフサイクル(GREET2)に分けて整理している(図1)。さらに、GREET1では、燃料のライフサイクルを採掘から使用までの3工程、GREET2では、車両のライフサイクルを部品の製造から処分・リサイクルまでの4工程に細分化しており、工程別に環境影響が評価される。なお、「環境影響」として評価可能な項目は、GHG排出量、大気汚染物質排出量(VOC、CO、NOxなど)、水消費量、エネルギー使用量(石油、天然ガスなど)の4つに大別される。

図1 GREETモデルの構成
図1 GREETモデルの構成

 

 GREET1及びGREET2における条件設定や算定されるデータの仕組みを図2に示す。GREETモデルによる環境影響評価では、燃料の種類や車両の特性に関する各種条件を任意に設定することができる。特に、GREET1では燃料の生産地や生産方法、GREET2では電気自動車に搭載するバッテリーの種類や部品のメンテナンス回数などを詳細に選択・設定できるため、使用する燃料や走行条件を変化させながら環境影響を評価できる点が特長である。

図2 GREETモデルで設定可能な条件と試算可能な評価項目
図2 GREETモデルで設定可能な条件と試算可能な評価項目

 

4. LCAツールの活用例

 GREETモデルを基に、LCAツールの活用例を以下に示す。車格はSUVを対象とし、ガソリン車(ICE)及び低炭素車(ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、バッテリー式電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCV)の4種類)のライフサイクルにおけるGHG排出量及び水消費量を試算することで、ICEを低炭素車に置き換えた場合の影響・効果を分析した9。なお、評価の条件はGREETモデルの既定値を基本にしているが、算定結果は条件設定を変えることで変動するため、以下は一例であることに留意されたい。

 a) GHG排出量の比較

 自動車のライフサイクルにおけるGHG排出量はICE>HEV>BEV>PHEV>FCVとなり、ICEと比較するとBEVはGHG排出量を約30%削減できる結果になった(図3)。

 ICEでは③車両の走行中のGHG排出量がライフサイクルにおけるGHG排出量の約70%を占めた。一方、BEVについては、③車両の走行中のGHG排出が抑制できる一方、①採掘から原材料の製造までや②原材料から燃料を製造し燃料タンクに補給するまでのGHG排出量がICEよりも増加した。BEVの場合、車両の走行に必要となる電力の製造が①や②に含まれることから、BEVのGHG排出量削減のためには、再生可能エネルギーなど、GHGの排出を抑制した発電方法由来の電力の利用が重要であることが示唆された。

 さらに、BEVでは⑤バッテリー製造工程のGHG排出量がライフサイクルにおけるGHG排出量の約27%を占めるため、駆動用バッテリーとして使用するリチウムイオンバッテリーを製造する際のエネルギー使用量を削減することも重要であると示唆された。

図3 ガソリン車および低炭素車のGHG排出量の比較
図3 ガソリン車および低炭素車のGHG排出量の比較

 

 ~米国のインフレ抑制法によるGHG削減コストと有効性~

 米国では、インフレ抑制法により、2023年から2025年9月にかけてEVを購入する際に1台あたり3,750~7,500ドルの控除が行われた。

 GREETモデルの試算によると、ICEをEVに置き換えることによるGHG排出量削減効果は、1台あたり230 g-CO2e/マイル10であり、車両の生涯走行距離を18万マイルと仮定すると、ライフサイクルにおけるGHG排出量削減効果は41.4 t-CO2e/台となった。2023年~2024年に約296万台のEVが購入された1112ことから、インフレ抑制法によって約1.2億t-CO2eのGHGが削減されたと概算された。

 米国歳入庁によると、2024年1月~4月にかけてEV10万台に対して合計5.8億ドルが支払われており13、GHG削減コストは約140.1ドル/t-CO2eであると概算される。米国環境保護庁は、一般にGHG排出削減によって回避される損害の価値が、2025年に212ドル/t-CO2e、2050年に308ドル/t-CO2eになる14と試算している。したがって、この概算結果によると、インフレ抑制法は経済的に有効な施策であると考えられる。

 b) 水消費量の比較

 ライフサイクルにおける水消費量はBEV>ICE>HEV>PHEV>FCVとなった。発電やリチウムイオンバッテリーの製造において、多くの水資源を消費するため、BEVの水消費量が顕著に多くなっている。ICEをBEVに置き換えることでGHG排出量は削減されることが示唆されたが、水消費量はむしろ増えてしまう可能性が示唆された。水資源の利用しやすさは地域性があることから、水消費量の差は無視できないリスクになる可能性がある。LCAでは、GHG排出量を試算し、施策を検討することが多い。しかし、施策の目的によっては、水消費量といった他の環境負荷にも着目し、総合的な施策を検討することが重要になると考えられる。

図4 ガソリン車および低炭素車の水消費量の比較
図4 ガソリン車および低炭素車の水消費量の比較

 

5. まとめ

 本コラムでは、LCAツールの一つであるGREETモデルを例に、環境負荷を可視化するLCAについて紹介した。GREETモデルを用いてガソリン車と低炭素車の環境影響を比較すると、ガソリン車を電気自動車に置き換えることはGHG排出量削減の観点では効果的であるが、水消費量が増加する点には留意が必要であると示唆された。このように、LCAは、近年進められているカーボンニュートラルに向けた取り組みが、GHG排出を含む資源環境にどのような影響を与えているかを定量化でき、得られた環境負荷を貨幣換算することで経済性も評価できる。

 環境負荷の低減と経済活動の両立を図るために、国はデータに基づいて環境負荷の少ない経済活動を的確に評価し、規制や財政補助の枠組みを設定したり、積極的な投資を推進したりすることが今後より一層求められるのではないか。また、事業者が自らの事業活動・製品における環境負荷を定量的に把握することは、より環境に配慮した商品の製造や持続可能な事業活動をする上で重要な手がかりになるだろう。

 GREETモデルには、本コラムで紹介した自動車のLCA以外にも、水素やSAF等のエネルギーに特化した複数のバージョンがあり、Excelファイル形式のデータがウェブ上で無料公開されている。一方で、GREETは米国での利用を前提として開発されたツールであり、例えば電力のGHG排出係数も米国のデータが基本となる。

 合理的根拠に基づく政策立案(EBPM)や、民間企業による持続可能な事業活動が推進されるためには、日本でもLCAに必要なデータの収集・整備が進められるとともに、利用が容易で国内外統一的なLCAデータ・ツールの開発と公開が行われることが望まれる。

本コラムに関する問い合わせ先

エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社

公共政策第二部 資源循環政策チーム

URL: http://www.mri-ra.co.jp/

〒100-0014 東京都千代田区永田町二丁目 10番3号 東急キャピトルタワー6階

※本コラムは、2026年4月1日時点で弊社が信頼できると考える情報に基づき作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報提供のみを目的としたものであり、特定のLCAツールや取引の勧誘を目的としたものではありません。ご利用に際しては、ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。