ESG投資は環境問題を解決するか

2017年11月15日

環境・エネルギー政策部 池田陽平

<Point>

  • 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG指数に連動した株式運用を開始
  • ESG投資は市場平均に対し超過収益をもたらす可能性がある
  • 投資家がESG評価の高い企業に選好して投資することが、環境(E)の要素である地球温暖化や環境汚染を解決する重要な要因の一つになり得る

 2017年7月3日、厚生年金及び国民年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、ESG指数に連動した日本株の運用を始めたことを公表した。また11月1日、気候変動を中心とした環境問題に取り組む企業に投資するため、世界全体の株式を対象としてESGのE(Environment)の分野に絞った株式指数の募集を開始した。このことは年金積立金の運用において、ESGの評価が高い企業が選択的に採用されることを意味する。つまり我々年金加入者は全員が間接的にESG投資を行っているのである。

本コラムではESG投資とは何かを概説した上で、そのE(Environment)に着目し、ESG投資によって環境問題の解決が図られるかを考察する。

1. ESG投資とは

 ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の英語の頭文字である。ESG投資とは、企業のキャッシュフローや利益率などの定量的な財務情報に加え、非財務情報であるESG要素を考慮する投資のことをいう。例えば、「E」は地球温暖化対策、「S」は女性従業員の活躍、「G」は取締役の構成などの要素が該当する。環境(E)のみや社会(S)のみの評価に特化した投資も含まれる。ESG投資に似た概念として、社会的責任投資(SRI、Socially Responsible Investment)という言葉があるが、SRIがまずは倫理的な価値観を重視することが多いとされるのに対し、ESG投資は長期的にリスク調整後の収益1を改善する効果があるとされている2

ESGの要素の例

2. GPIFのESG投資

 GPIFの運用ポートフォリオは、分散投資の観点から国内債券、国内株式、外国債券、外国株式で構成されている。2017年度第一四半期現在、その運用資産額は約149兆円、運用成績は2001年度比で、収益率が+3.07%(年率)、収益額が58.5兆円(累積)となっている。これは2008年のリーマンショックの時期を含めた成績であり、長期分散投資の効用をはっきりと示す事例といえるだろう。

 このような状況の中でGPIFは、環境や社会の問題などネガティブな外部性の最小化を通じ、長期的な収益の最大化を目指すためにESG評価に基づくポジティブ・スクリーニングを基本としたESG投資を、3つの指数に基づき国内株式全体の3%程度(1兆円程度)で開始している。また、環境(E)のテーマ型指数を全世界の株式を対象に募集中であり、将来的には運用額の拡大も見込んでいる。

GPIFが採用したESG指数
種別 指数名
総合型 FTSE Blossom Japan Index
総合型 MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数
テーマ型・社会(S) MSCI日本株女性活躍指数(愛称はWIN)
※環境(E)のテーマ型指数は継続審査中。
出所:GPIF「ESG指数を選定しました」http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/esg_selection.pdf

3. 投資家はなぜESG投資をするのか

 ESG投資はGPIFのような大手機関投資家だけでなく、個人投資家にも浸透し始めている。投資家は自分で"投資対象とする企業"、あるいは"投資対象としない企業"を選定することもできるし、MSCIやS&Pなどの大手インデックスプロバイダーが設定しているESG指数(ESG評価が高い銘柄群による株価指数)に連動する投資信託を購入することもできる。

 このような投資家はなぜESG投資をするのだろうか。一つの単純明快な理由は、ESG投資が他の株式投資手法と比較して相対的にリスクを抑えて超過収益をもたらす、つまり安定的に儲かると信じるからである。ESG評価が高い企業は環境問題や社会問題、企業統治問題に積極的に対応しているため、それらの問題に起因するダウンサイドリスクに耐性があり、またそれらの取組により企業価値が高まることで収益性も向上するはずであるという仮説に基づいている。ダウンサイドリスクの分かりやすい例として、粉飾決算による市場からの信頼失墜とその結果としての株価下落が挙げられる。企業価値向上の例として、例えば環境(E)の観点では、ある企業が炭素税導入のような将来の規制を見越して企業活動の低炭素化に取り組むことで、競合他社に対して製品の低炭素化技術で優位に立つという事業シナリオが挙げられる。また、その他の理由としては、年金基金のような機関投資家にとっては、その運用方針に関して法令でESG投資自体が義務付けられている場合があることや、受益者である年金加入者がESG投資を求めていること(社会的要請)などが挙げられる。

4. ESG投資は超過収益をもたらすか

 ESG投資が安定的な収益をもたらすことは、投資家のインセンティブとして重要である。環境(E)の事例として、低炭素インデックス(Global Climate Change Leadersインデックス)が市場平均に対し4年間で6%の超過収益をもたらしたことが報告されている(下図)。この事例によれば、ESG投資は社会的・道徳的意義を持つだけでなく、投資家に超過収益をもたらす有効な手法であることが示唆される。

低炭素インデックスが市場平均を上回った例

出所:CDP「CDP気候変動レポート2016」(2016年10月)※赤字は筆者の追記。

 一方で、ESG投資の実効性を有意に示す実証事例は必ずしも十分ではない。大和総研のレポート3によれば、UNEP Finance Initiativeが公表したレポート4において、対象企業のESG要因が株式収益の向上に寄与するかどうか関連する20本の論文を調査したところ、正の効果があるとしている論文が10本、どちらかといえば正の効果があるとしている論文が2本、中立としている論文が4本、負の効果があるとしている論文が3本、どちらかといえば負の効果があるとしている論文が1本という結果が報告されている。

5. ESG投資は環境問題を解決するか

 企業は投資家の期待に応える必要があるため、投資家がESG評価の高い企業を選好して投資することは企業のESGへの取組を促進し、環境(E)の要素である地球温暖化や環境汚染を解決する重要な要因の一つにもなり得る。しかし、投資家が期待する安定的な超過収益と環境問題への取組は本当に両立するのだろうか。

 例えば地球温暖化問題においては、経済が成長すると温室効果ガス排出量も増加してしまうと考えられてきた。しかしCDPのレポート5によれば、質問票に回答した全世界の企業のうち、製造業を含む8%の企業が過去5年間で温室効果ガスの排出削減と収益増の両立(デカップリング)を実現している。これらの企業は、再生可能エネルギーへの転換や、生産性の向上、省エネルギー型のシステム改革等に取り組んでいる。この事例は、企業の温室効果ガス排出削減への取組が、リスク管理だけでなく収益向上にもつながることを示唆している。このような先進的な企業は自主的に環境問題に取り組み収益向上を実現している一方で、そうでない企業は環境問題への取組とそれによる収益向上の機会を逃している可能性がある。ESG投資はそのような企業活動の裾野を広げる可能性を持っているといえよう。

 従来の経済学では、環境問題は市場原理では解決ができず、政府による規制(例えば税や排出規制)が必要といわれてきた。ESG投資は、市場原理によって外部不経済である環境問題を内部化できる可能性を示唆している。環境問題に対する政策立案者の立場としてはESG投資を政府による規制や企業の自主的取組ではない第三の潮流として認識しておく必要があるだろう。

 ただし、現時点では環境問題への取組と収益向上の相関関係は必ずしも因果関係を示しているわけではないことに留意が必要である。ESG指数で高い評価を受けている企業は、元々技術的に優位であったり、収益率の高い事業を持っていたりして、結果的にESGへの取組がしやすい環境にあるのかもしれない。その企業のESG評価が高いことが、投資家に安定的な超過収益をもたらすかどうかは引き続き検証が必要である。

 以上のことからESG投資が本当に環境問題の解決に資するかどうかは、一つには多くの投資家がESG投資を選好するかどうか、二つにはESGへの取組が企業価値の向上、ひいては収益向上に資するかどうかにかかっている。その正否を判断するには今しばらくの時間が必要であるが、冒頭で述べたとおり日本の公的年金の一部は既にESG投資により運用されている。直接的に株式投資を行わない個人にとっても、受益者としてESG投資の意義やその効果を注視していくべきであろう。

以上

  1. リスク調整後の収益とは、当該資産額の騰落による運用成績だけでなく、その変動幅などのリスクも考慮してどれだけ安定的な収益を得ることができるかを指す。代表的な指標にシャープレシオ(収益率÷標準偏差)がある。
  2. GPIF「ESG投資とは」http://www.gpif.go.jp/operation/esg.html
  3. 大和総研経済環境調査部 主任研究員 伊藤正晴「ESG投資は、何を目指すのか」(2015年10月15日)
  4. UNEP Finance Initiative「Demystifying Responsible Investment Performance」(2007年10月)
  5. CDP「CDP気候変動レポート2016」(2016年10月)