MRI Research Associates
技術・安全事業部
PROJECT STORY08
電波の未来を守るのは
適正な制度やルールと、若い力
携帯電話・通信衛星・気象レーダーなど、我々の社会を支えている数々の無線機器。
これらは互いに電波干渉を与えないよう、異なる無線周波数を使うことが電波法で義務付けられている。
しかし、5G通信などのように、日本国内で新たに運用される無線は今後さらに増えると予測され、
これからも安定して電波を利用できる環境を維持できるかに、大きな注目が集まる。
新田 竣祐

技術・安全事業部
2018年入社
理学研究科 宇宙地球科学専攻 博士前期課程修了

社会課題の解決に資する調査研究業を志望し、理工学のスキルを活かせるMRAへ。今回のプロジェクトでは、まとめ役を務めた。趣味は、入社後に始めたという作曲とDJ。自信をもって人に聴かせられる曲を作るのが今年の目標。

Shunsuke Nitta
永門 航

技術・安全事業部
2019年入社
工学系研究科 都市工学専攻 修士課程修了

学生時代の専門に囚われすぎずに幅広い分野の調査・分析に携わりたいと考える中でMRAへ。趣味はエレクトーン演奏で、大学時代はサークル仲間とライヴをやっていた。実はMRIグループの軽音楽部に所属。新田氏ともバンドを組んでいる。

Wataru Nagato

01
プロジェクトの背景

ずっと、電波を安心して使える社会であるために

近年、多様な業種におけるIoT化の推進や、5G通信の普及拡大によって、急速に高まっているのが周波数需要だ。しかし、限られた周波数の範囲内で、無数の無線機器が同時に電波を利用するのは大変困難なこと。そのため、今後利用数がさらに増えても有害な干渉事例を起こさないよう、利用が活発な周波数帯における共用や再編の制度検討が社会的に求められている。

周波数共用ルールの制定や電波法の改正ではなぜそのような決定に至ったかを客観的に説明するため、技術的に実証された根拠を明確に示す調査研究が必要となる。この調査研究業務を、三菱総合研究所(以下、略称MRI)とMRAが支援している。

有害な電波干渉とは、
どのようなことなのか。

新田
「国内に限らず現代社会ではたくさんの無線機器が利用されていますが、それら機器がお互いに干渉することなく安全に利用できているのは基本的に別々の周波数の電波を使っているためです。しかし、利用できる電波の周波数は無限にある訳ではないため、例えば『気象用レーダーと船舶用レーダー』あるいは『地上波テレビ放送と携帯電話』のように同じ周波数の電波を使っているものもあります。周波数共用が行われる帯域では使用機器が増えるほどその帯域が混み合い、相互に干渉する恐れが高まります。そういったことがないよう電波利用機器の間での運用ルールの検討等をしています」

「干渉すると障害が起きてしまいます。例えば、気象用レーダーなら何もない場所に雨雲のような物が表示されてしまう。テレビ放送なら映像にノイズが走ってしまう。スマートフォン等の情報通信であればエラー率が増えて通信速度が遅くなる、といった現象です。現在は、総務省が厳正に定めた免許制度に従って各事業者が電波を利用していますので、障害は起きていません。しかし今後、電波の利用が増えるほど予期せぬ事故が起こるリスクは高くなります」
永門
「そこで、日本国内で新たに利用される予定の無線機器が、同じ周波数を使う既存機器に対してどの程度の干渉被害を与えうるかを技術的に検証し、それを踏まえた新たな周波数共用のルールづくりが必要になります」

「本プロジェクトでは、日本国内で新たに予定される無線利用が同じ周波数の既存機器に対して、どの程度の電波干渉を与えうるかを技術検証し、周波数共用ルールの提案を行いました。三菱総合研究所(以下、略称MRI)との共同です。役割分担としては、MRIが中央省庁や既存機器を扱う事業者など色々な立場の方々の間に立って、電波利用のルール改正を検討しました。そして、MRAは検討する上で根拠となる電波干渉の数値シミュレーションや、実機試験によるデータ収集を担当しています」
新田
「ただ、完全に分担してはおらず、MRAも MRI と一緒にルール改正の検討に関わっています。MRAは単なる計算屋・測定屋ではなくコンサルタントですので最終的な共用ルールの提案まで見越した上で技術検証を行っていますし、実際に生のデータに触れている立場だからこそ言える意見もあります。具体的な技術検証としては例えばある機器が発信する電波信号に関して、その電波が干渉源となってどこまで伝搬してゆくかの数値シミュレーションを行っているほか、その電波を他の無線機器が受信してしまう状況を実機で再現する試験を行って被害の重篤さを評価しています」

02
MRAの英断

将来に目を向け、
大胆に若手を抜擢したプロジェクト

まずは、人の目には見えない電波が、どこへどれだけ届いているのかを、どのようにして追ったのだろうか。データ収集業務の中身や、それにより取得した情報について聞いてみた。

新田
「業務としてはまず、今後新たに国内で普及してゆく可能性があるレーダーを検討対象とし、そのレーダーのメーカーと共同で今後発生する恐れがある電波干渉の重篤さを評価する数値シミュレーションと実機試験を行いました。そして、その結果を政府やその他関係者(上述メーカーの開発者、その機器を運用する事業者、干渉を受ける機器の運用団体・協会、技術検討の妥当性を評価する大学研究者など)が集う有識者会議に報告し、今後策定すべき周波数共用ルールの提案を行いました」

具体的には行ったことは。

永門
「新たなレーダーを設置するに当たり日本国内のどこならば設置可能か、を理論計算による数値シミュレーションと実機試験(屋外電波測定など)の両面から検証しました。海の近くに設置すると色々な機器に干渉被害を与えてしまう恐れがあったからです。またこの検討で用いたシミュレーションの理論は比較的新しく、専門家の間でも正しい結果を導けるものかコンセンサスが取れていなかったため、まずは理論式自体に対する実測検証が必要でした」
新田
「数値シミュレーションに使った理論式はレーダーの発信電波がどこまで届くか、電波の広がりが地形や建物によってどのぐらい遮蔽・回折の影響を受けるのかを厳密に計算できるものでした。『山やビルの向こう側に干渉波はあまり届かないだろう』ではなく『具体的な数値としてこのぐらいは届く』と、電波の強さを地図上に色で表示して視覚化する作業をしています(①)。この計算作業では永門が大学時代に習得していたGIS(地理情報システム)のスキルが活きていて、地形標高や建物高さの地理データ収集・整理で非常に助けられました。その後、この計算が本当に合っているかを実測で確認しています(②)」
永門
「こういった検証作業を踏まえて、本来知りたかったレーダーの設置可能場所を日本地図に表示したもの(③)を作成しました。①の計算図はある特定の狭い地域だけを対象としたものですが③はその計算範囲を日本全国に拡張したもので、電波が干渉の原因となるほど強く届いてしまう場所を赤く塗っています。この一連の成果を有識者会議で報告し、検証作業に対して意見を求め、合意形成していきました」
①発信電波の強弱を色で表示した地図
②実測により計算結果を検証する様子
③赤く塗られた地域にこの機器は設置できない

どのようなことで苦労や難題があったのか。

永門
「競合他社が中々いないニッチな事業分野で、MRAとしても全く経験のない新たなチャレンジだったことです。当然ノウハウはなく、無線工学の経験者も、特別な資格を持っている人間もいませんでした。しかし、今後の国内情勢を考えると、周波数共用は解決すべき社会課題です。このため、理工学系の人材が豊富なMRAが率先してノウハウを習得し、機材を実際に使った測定や数値シミュレーションによるデータから得られた知見によって議論をリードしながらプロジェクトを進めていきました」
新田
「このプロジェクトには若手が主にアサインされました。経験者がいないわけですから、勉強しながら進行させていくことになります。ベテラン社員は既に様々な業務に関わっており、時間にそう余裕がありません。それよりも集中して取り組む時間がとれる若手に向いていると考えられたわけです。今後ずっと大きな社会課題として解決のニーズが長く継続していく見込みであり、ビジネスとしての成長も期待できる分野であるため、より長く関わっていける若手に期待してのことだったようです」
永門
「プロジェクトを牽引する立場の新田を中心に、若手メンバーが率先して知識習得に努めてきました。講習会の受講や資格試験受験に対する会社のサポートも厚く、費用を補助する制度があり、公休の利用も可能です。現在では、メーカーや研究機関の専門家を相手にした無線工学の議論も、問題なくできるようになっています」

03
プロジェクトの評価と展望

初めてのチャレンジでも、高い評価
今後へつながる自信に

今回のプロジェクトによる提案が、今後の周波数共用ルールの制定や電波法の改正において、基礎となることはきっと間違いないだろう。そして、この第一の目的を達成するだけでなく、MRAの事業活動、ひいては実績・経験として得られた成果もあるはずだ。

新田
「最も大きな成果は、MRAが新規事業として電波通信に関わる技術検証業務を担当できるようになったことです。電波通信に関わる知識やノウハウをたくさん得られました。社外の専門家と現行の無線利用規則の改正について議論する中で、コンサルタントとして提案やアドバイスができるほどになっています。そして今では、先ほど述べた案件以外の通信機器に関するプロジェクトの引合が来ています」

評価された点はどのようなところか。

新田
「干渉影響評価と周波数共用ルールの提案については常に根拠となるデータを漏らさず論理的に伝えるよう、いわば最高の『質』を確保するよう努めており、そのような姿勢が信頼いただいているものと思います」
永門
「実測試験の実施計画資料を精密に作り込んだことがあり、それを見た社外の関係者から『MRAって電波測定の会社だったんですね』と言われたことがありました(笑)。もちろんその表現は的確ではありませんが、『専門の測量会社と同等の資料を作ることができた』という証明ではあり、スキルを認めていただいたものと捉えています。シミュレーションでも全ての入力パラメータに対して厳密な設定を与える丹念さが必要です。ひとつひとつ根拠を持って設定しているかどうかが、アウトプットの質に関わってきます」

今回の経験を、さらにどのような事で活かしたいか。

新田
「私は無線情報通信にチャレンジしたいです。競合他社が多く技術的にも高度な分野ですが、特に5G通信や第6世代Wi-Fiなど周波数共用を検討すべき社会的なニーズも非常に大きい分野です。このため、今後は無線通信回線の数値的評価を行うためのシミュレーションや実機試験の手法を学んでいきたいと考えています」
永門
「私も5G通信やWi-Fiに興味があります。情報通信は技術的にも周波数共用の制度的にも複雑で、社外の有識者からご意見をうかがう機会も多くなりそうです。干渉を与える側・受ける側の交渉は大変になってくるでしょうし、さらに難しい業務になってきますが、社会的なニーズは高く、ビジネス的にも意義があるので、ぜひ関わってみたいです」

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