MRI Research Associates
エンジニアリング事業部
PROJECT STORY08
原子力発電所の構造健全性評価プロジェクト
原子力発電所の万一の重大事故を想定し、
鉄筋コンクリート構造の建物が、炉心溶融による2000度もの高温にどこまで耐えられるのか、
FEM(有限要素法)を使って解析、評価する。
清水 史也

エンジニアリング事業部
特命専門部長 博士(理学)
2005年入社
理学系研究科 物理学専攻 修了

学生時代の論文の主査は、のちにノーベル物理学賞を受賞する小柴昌俊教授。「若い頃からロック音楽が好きで、キング・クリムゾンとデヴィッド・ボウイのファンです」

Fumiya Shimizu
二見 将弘

エンジニアリング事業部
2014年入社
理工学研究科 機械工学科 修了

高校時代、柔道部。その後、護身術を修練し、現在は業務の傍ら、格闘技を教える。「速読術を習得していて、1日に最大20冊、年間では約1000冊の本を読みます」

Masahiro Futami

01
プロジェクトの背景、なぜMRAなのか

原子力発電所の運転期間延長

2018年11月7日、原子力規制員会は某電力会社が所有する原子力発電所の20年間の運転期間延長を認可したというニュースが、新聞やテレビで報じられた。原子力発電所の原子炉には、加圧水型と沸騰水型があり、沸騰水型の原子炉としては初めての運転期間延長の認可だった。

日本の原子力発電所の運転期間は、法律により40年と決められており、原子力規制委員会が定めた基準に適合した場合のみ、20年を超えない期間、延長することができる。基準に適合しない場合は、廃炉になるため、運転を続ける意思のある電力会社は、基準に適合するために必要な対策を講じなければならない。この原子力発電所の40年の期限は2018年11月下旬で、延長の認可は、ぎりぎりのタイミングだった。

計算工学のプロチームがチャレンジ

MRAエンジニアリリング事業部の清水史也と二見将弘は、電力会社が受ける原子力発電所の審査を計算工学の面から支援している。二人の任務は、数値解析によって、万一の事故が生じた場合、建物がどの程度壊れ、どの程度持ちこたえているかを予測することだ。

清水
「言い換えると、私たちの業務は、万一、原子力発電所で重大事故が発生しても建屋が倒壊することはなく、事故の影響を原子炉内部に局限できるということをシミュレーションによって示すのです」
二見
「原子力発電所の運転期間延長の審査項目は、たくさんあります。重大事故にしても、津波、竜巻、飛行機の墜落など何種類もの原因が想定されています。今回、私たちが対応したのは、それらのうちの一つで、高温が原因で原子炉を支える構造物のコンクリートの一部が壊れた場合の安全性の評価です」
清水
「原子炉の重大事故では、燃料棒が溶融したデブリと呼ぶ2000度に達する高温の物体が、炉の下側にある水溜に落下して水蒸気爆発が発生します。そうすると、原子炉の周囲のコンクリートも高温になって溶けたり、溶けなくても強度が低下したりします。この反応をMCCI(Molten Core Concrete Interaction/溶融炉心とコンクリートの相互作用)と呼んでいます。私たちは、対象の原子力発電所でMCCI事象が起きた場合、原子炉を支える土台や建物が倒壊することなく、原子炉を支え続けることができるかどうかを解析によって検討しました」

コンクリート解析で定評のあるMRA

今回のプロジェクトは、もともと、衝撃解析を専門にするエンジニアリングコンサルタント会社のT社が、顧客から依頼された案件だった。同社は得意分野の衝撃解析については自社で行うことにしたが、コンクリートの解析については、以前から定評のあったMRAに協力を求めてきた。両社はパートナーとして、T社は主に水蒸気爆発の解析、MRAは主にMCCIの解析を受け持つことにした。

清水は、学生時代、素粒子を研究した。茨城県つくばの高エネルギー物理学研究所(現在は高エネルギー加速器研究機構)で研究を行ったあと、1982年、三菱総合研究所(以下、略称MRI)に入社。「MRIは、当時、日本に2台しかなかったスーパーコンピュータ、Cray-1(クレイワン)を導入していました。私はそのスーパーコンピュータに導かれるようにMRIに就職しました」と当時を振り返る。以来、清水は、MRIとMRAで一貫して計算工学・構造解析関係の業務に従事してきた。現在は、大学工学部の講師も務めている。

二見は2014年入社、20代の若さで、固体力学分野の数値解析の資格である計算力学技術者1級を取得している新進気鋭のエンジニアだ。機械工学を学び、大学院では金属の引っ張りによる変形を研究した。MRA入社後、エンジニアリング事業部の前身の技術情報部に配属になり、現在に至る。

02
プロセス、発揮される専門性

試行錯誤を繰り返し、新しい手法を確立

二人の仕事は、どのようにして行われるのだろうか。

二見
「ごく簡単に説明すると、お客様から提示された構造物の図面と重量などの物性データを基に、3Dモデルを作成します。それに、高温などの荷重状況を設定して、事故の状況を再現します。それを解析して、お客様に報告するのです」

3Dモデルをつくるにあたり、二見は、FEM(Finite Element Method、有限要素法)という手法を使う。二見は「メッシュを切る」という表現をするが、FEMは解析対象全体を小さな領域に分け、それぞれの領域に温度などの条件を設定することで、全体の連続した挙動を予測する数値解析の手法だ。各領域にデータを設定し終えたら、重力加速度などを設定し、今回の場合は300時間程度の間に起こる現象の解析を行った。3Dモデルさえ完成すれば、通常は一晩で結果が出るのだが、この原子力発電所のモデル化は思わぬ時間がかかった。

清水
「二見の技術なら、コンクリートだけの構造物でしたら、割と簡単に3Dモデルを構築できるのですが、今回のプロジェクトの原子炉を支える構造物には、大量の鉄筋が入っていて複雑な動きをするため、モデルの構築だけで2017年2月から4月まで約2カ月もかかりました。しかも、その後もMCCIを計算する手法が決まらず、試行錯誤が延々と続きました。実は、私は夏の時点では、このプロジェクトは失敗に終わると思っていました。『結局、答えは出せませんでした。すみません』とお客様に謝ることになると想定していました」

コンクリート解析を得意とするMRAの計算工学のプロが、音をあげかけたほどの難しいプロジェクトだったのだ。それでも希望を捨てずに頑張ることができたのは、沸騰水型の原子炉の運転延長は日本で初めてのことだが、加圧水型の原子炉では前例があったため、モデル化の手順や準備の参考にできたからだという。

03
成果

日本材料学会で研究発表

3Dモデルは4月に一応構築できたが、MCCIの計算に入る前の試行錯誤が、夏の間ずっと続き、MCCIの本計算に取り掛かったのは秋だった。そして、それが年明けまで延々と続いた。計算は終わっていなかったが、年末には報告書の作成に取り掛かり、なんとか2018年2月にはMCCIの計算を終えた。

その間の12月、二見は関係者を代表して、日本材料学会のシンポジウムで、『高温環境下におけるRC(鉄筋コンクリート)構造物の耐久性評価手法について』というタイトルの論文発表を行った。お客様からの「学問的に認知されている手法で解析を行ってほしい」という要望に応えるためのものだった。二見は、これまで誰も言及していない画期的な手法を発表できることが誇らしかった。

3月、清水と二見は、学会で発表した手法を使って解析を行った報告書をお客様に提出した。

清水
「原子力発電に対して世間やマスコミの目が厳しいこともあり、お客様のチェックは非常に厳密で、長時間を要します。今回のプロジェクトのチェックは、3Dモデルをつくった時点から始まり、MCCIの計算中にも行い、3月に報告書を提出した後も続きました」
二見
「原子力発電所のMCCIの解析は、特殊なプロジェクトでしたが、コンクリートが高温になって生じる問題は、トンネル火災などにも応用が利きます」
清水
「私たちが取り組んだMCCIは、数多くの審査項目の一つに過ぎませんが、構造物の健全性を証明でき、運転期間延長の認可が下りたことで、お客様からは喜ばれています。何よりも、難しい課題をクリアしたことは、私たち自身の自信になりました」

清水と二見の1年以上を費やした努力によって、MRAの構造解析に対する信頼は、また一段階、上がったのである。

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