自動運転(1) -自動運転とは何か-

2017年5月16日

社会公共政策部 田中 清一

 

○日本では自動運転レベルを4段階で定義、現在の市販車は「レベル2」

○完全自動運転「レベル4」までには、技術的側面以外の議論が必要

○急速な技術開発や社会的関心を背景に、米国では定義を規格化し公表

 

「自動運転元年」、2016年はそう呼ばれる年になるかもしれない。5月の伊勢志摩サミットでは自動車メーカー各社が自動運転車両のデモンストレーションを行い、8月には日産自動車がファミリー向けミニバンである「セレナ」を「自動運転技術搭載」を謳い文句に販売を開始した。マスメディアでも、9月の「NHKスペシャル」で自動運転をテーマとした番組が流され、自動運転をアピールするテレビCMも頻繁に目にするようになった。こうした動きを経て、社会の認知や関心は一気に高まった。
本連載では、この自動運転に着目し、定義や技術開発の動向と課題、将来展望などを解説する。第1回の今回は、自動運転の定義(レベル)を紹介する。

 

では、自動運転とは何か。ある人は、ドライバーが何もせず乗るだけでクルマが勝手に走る、あるいはドライバーが乗っていなくても走り回るクルマをイメージするかもしれない。ある人は、多くの市販車に搭載されるようになったACC(定速走行・車間距離制御装置)を考える人もいるだろう。
日本政府では、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、自動運転の定義を、レベル別に表のように示している。

 

自動運転レベル及びそれを実現する自動走行システム・運転支援システムの定義

自動運転レベル 概要 注(責任関係等) 左記を実現するシステム
レベル1 加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行う状態 ドライバー責任 安全運転支援システム
レベル2 加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う状態 ドライバー責任※監視義務及びいつでも安全運転できる態勢 準自動走行システム 自動走行システム
レベル3 加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが要請したときはドライバーが対応する状態 システム責任(自動走行モード中) ※特定の交通環境下での自動走行(自動走行モード)※監視義務なし(自動走行モード:システム要請前)
レベル4 加速・操舵・制動を全てドライバーが行い、ドライバーが全く関与しない状態 システム責任 ※全ての行程での自動走行 完全自動走行システム

出所:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム研究開発計画(内閣府)

これに従えば、軽自動車にも搭載されるようになった自動ブレーキ(前方に障害物を発見すると自動的にブレーキをかける機能)は、システムが制動を行う「レベル1」の「安全運転支援システム」にあたる。ACCは、アクセルを操作しなくても設定した速度で走行し、前方の車両との車間距離が狭まったら減速、開いたら加速するといった制動と加速の制御を行う「レベル2」の「準自動走行システム」である。
先の「セレナ」は、自動ブレーキ(制動)やACC(制動、加速)の機能に加え、道路の白線を検知しながらハンドル操作(操舵)を行うものの、定義に従えば「レベル2」にあたる。これは、車両システムが責任を負う自動運転ではなく、ドライバーの運転を支援する機能という位置づけによる。
このように、既に「レベル2」までの自動運転は街を普通に走り回るようになっている。しかし、車両が走行に責任を負うことになる「レベル3」、すべての走行にシステムが責任を負う「レベル4」の実現に向けては、自動運転時の運転マナーや遵法性、事故時の責任論といった、技術的側面以外での議論が必要である。

 

米国でも自動運転のレベルが定義されており、米国道路交通安全局(NHTSA)や米国自動車技術会(SAE)が提示した定義がよく取りあげられる。世界の自動車業界に大きな影響力を持つSAEによる定義は2014年に発表されていたが、自動運転の技術開発の急速な進展を背景に改訂が行われ、2016年に下表のように改訂された。先にあげた日本(SIP)の「レベル4」に相当する部分が、SAEでは「レベル4」と「レベル5」に分けられている。

「SAE J3016:2016」の自動運転レベルの定義

区分 レベル 名称 定義 運転タスク 運転タスクの代替対応 自動化の環境条件等
運転制御 事象検知・反応
ドライバーによる運転 0 非自動運転 ドライバーが全ての運転タスクを完遂。 ドライバー ドライバー ドライバー -
1 ドライバー支援 限定的な範囲での自動運転の実施。自動的に事象を検知して前後方向、左右方向のいずれかの車両制御を実施し、ドライバーの運転タスクを補助。 ドライバー/車両 ドライバー ドライバー 限定的
2 部分的自動運転 限定的な範囲での自動運転の実施。自動的に事象を検知して前後・左右方向の車両制御を実施し、ドライバーは事象検知・反応を補いつつ、運転制御を監督。 車両 ドライバー ドライバー 限定的
システムによる運転 3 条件付自動運転 限定的な範囲での自動運転の完遂。ドライバーはシステムからの要請があった場合や故障時には対応する。 車両 車両 ドライバー(フォールバック時) 限定的
4 高度自動運転 限定的な範囲での自動運転の完遂。ドライバーによる対応は不要。 車両 車両 車両 限定的
5 完全自動運転 範囲を限定しない自動運転の完遂。ドライバーによる対応は不要。 車両 車両 車両 限定無

注:「自動化の環境条件」には、例えば速度による条件や自動車専用道路、駐車場内のような周辺環境の条件などがある。

出所:SAEプレゼンテーション資料を基にMRA作成

自動運転のような広く社会に影響を与えるシステムを論ずる際には、概念の定義、またそれを示す用語の定義が重要である。概念や用語を共通化しないままでは、様々な分野の関係者による議論はなかなか収束しない。こうしたことから、通常は有償で販売されるSAEの規格文書の中で、この規格は一人でも多くの関係者が参照できるよう無料となった。自動運転が自動車の技術者だけではなく、広く社会全般が関心を持つべき一つの証左でもある。

 

次回は自動運転のために利用される技術を解説する。